下記のリンクによれば、秋田県秋田市の水道水の水質検査において2022年8月に868ng/L、2023年8月3063ng/Lのネオニコチノイド系農薬殺虫剤「ジノテフラン」を検出したそうです。
3000ng!と聞くと何やら水道水にやばい毒素が結構入っているのかな?と身構えてしまいますね。農業、農薬にあまり関わりのない一般の方であれば、この数字がどれほど恐ろしいことなのか見当をつけにくいのが本音だと思います。
そこで、今回は農薬を含めた化学物質が人体にもたらす影響を原点から考えてみるとしましょう。
毒とは何か?
まず、私たちは食事をして体の栄養やエネルギーとなる物質を摂取しています。この物質も全て「化学物質」です。これらは人体に良い作用をもたらすものもあれば、何の作用も無く体外に排泄されていくものもあります。
問題はこれらの成分がある一定量を超えて摂取した時に、 人体に有害な影響が出てしまう場合です。
人間が生きていくのに必要な「水」でさえ、短時間に大量に摂取すれば水中毒を起こし最悪死に至ります。同じく人体に必須の「塩」も大量摂取すれば死んでしまいます。
つまり、食品が安全かどうかは、摂取する食品=化学物質の「量」と、それぞれの「毒性」に依存し、すなわち「どんな食品でも毒となり得る」ことを意味します。これが量の概念です。
安全性の量の概念
安全な食品があるのではなく、安全な「量」がある、ということを念頭に、冒頭の水道水から検出された農薬の「量」から有害かどうかを考えていきましょう。
上のグラフを参考に進めます。
横軸の「摂取量」これが多ければ多いほど縦軸の「人体影響」つまり毒性が高まっていき、人体の解毒・排泄機能を超えると「中毒」症状が現れます。さらに多ければ最終的に致死量、つまり「死亡」してしまうというわけです。
農薬等の物質はどれくらいの「量」であれば人体に毒性がないかを様々な試験によって決定しています。その過程はこう。
①およそ30項目の毒性試験を経て、実験動物が一生のうち毎日食べ続けても悪影響の出ない最大の「量」が決まります。
これが「無毒性量(=NOAEL)」で、各試験の中で最も少ない量が原則採用されます。
②動物と人との種差を10、人間の個体差を10として、それらを掛け合わせた数値100(これを安全係数といいます)で「無毒性量」を割ったのが、人が一生毎日食べ続けても悪影響がないと認められた「1日摂取許容量(=ADI)」となります。
一般的に流通する食品の残留農薬のほとんどはADIの数百〜数千分の1に留まっています。ちなみに残留農薬の基準値は食品から摂取する対象物質の合計が80%以下になるように定められています。
さて、このADIを用いて冒頭の「水道水に3,000ng/Lの農薬!?」がどのくらいヤバいのかを確かめていきましょう。
いざ計算!
秋田市の水道水から検出された農薬は「ジノテフラン」という物質。順序良くいきましょう。
① イヌを用いた毒性試験で、動物が一生のうち毎日食べ続けても悪影響の出ない最大の量、つまり「無毒性量」は22mg/kg 体重/日と定められました。
② 次に動物と人との種差を10、人間の個体差を10とした安全係数100で無毒性量を割ると、1日摂取許容量(ADI)は0.22mg/kgということがわかりました。これが、ジノテフランを人が一生毎日摂取し続けても悪影響がないと認められた数値です。
さて、それでは秋田市の水道水から検出されたジノテフランの量に注目。ngとはナノグラムと読み、1ミリグラム=100万ナノグラムです。ということは3000ng=0.003mgという計算になります(グラフの青い吹き出し部分)。
体重20kgの子どもが毎日この水道水を飲むと仮定すると、1日に摂取できる許容量は
0.22 × 20 = 4.4mg となります。
これを水道水の検出量で割ると…
4.4 ÷ 0.03 = 約1,460!
つまり1日あたり1,460Lまでなら秋田市の水道水を飲用しても大丈夫、ということになります。体重が60kgの大人であればこの3倍です。
ふむ、何というか、膨大というか、途方もない「量」ですね…
こんなに飲めば間違いなく水中毒になってしまいます。飲まねえよ…
結論
結論として、「水道水に3,000ng/Lの農薬!?」は見出しでは結構身構えてしまうものの、順を追って考えれば0.003mgという塩1粒の1/333の「量」をさも危険である!と怖がる必要は必ずしもなさそうです。
こういったニュースは使用されている数値や割合の単位に注目し、その「量」を見極めていきたいものですね。
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