#72 千葉県いすみ市のオーガニック給食における疑問

農業

千葉県いすみ市では、地場産有機米を100%給食に使用した「いわゆるオーガニック給食」の好例とされ、各自治体をはじめ色々な組織団体が参考にしています。オーガニック給食については今般様々な議論がなされ、その是非について意見が分かれているところ。今回は千葉県いすみ市の実施した給食のオーガニック化について、私が疑問に思った点をいくつか備忘録として書き留めておきます。

いすみ市の公式HPには、オーガニック給食化関連の活動を包括的にまとめた「いすみ市における有機米の学校給食使用と有機米産地化の取組みに対する自己分析」という論文が載せられています。現在行政視察を断っている当該自治体の全貌を知るためにこちらの資料は大変参考になります。今回はこれを読み込んでみます。

「公的機関だから」難しい??

文献では自治体が追加的コストを投じることになる有機農産物の学校給食での使用に、どのような目的や根拠を見出すことができるかということに焦点が当てられている部分があります。

第三に,保護者が最も期待することとして,食の安全向上がある.有機農産物は一般農産物比べ,農薬の残留が少ないことは間違いないが,だからといって公的に定められた残留基準値以下にある一般農産物に対して,食の安全度が低いという見解を自治体が示すことは公的機関の性格上難しい.そのようなことから,学校給食に有機農産物を使用することで食の安全を高めるという自治体の主張は,どうしても控えめな印象になりがちである.

要約すると

① 保護者は「食の安全性向上」を最も期待している
② 一般農産物が有機農産物より食の安全度が低いという見解は公的機関ゆえに難しい
③ 有機農産物の使用が食の安全性を高めるという主張は控えめな印象になる傾向


さて、ここで疑問です。

食の安全性向上にオーガニック??

仮に現在の従来の慣行農産物を使用した給食に置いて、子どもたちに何らかの被害等が発生しており問題が顕在化しているなら①の理由は最もです。しかし、調べてみても特段今の給食に有害性は認められません。「食の安全性向上」に応えるためのオーガニックはそもそも目的と手段の関係がなり立ちません。

食の安全性において、慣行も有機も差異はありません。これだけは覚えておきましょう。

それなのに②のように慣行農産物が有機農産物より安全性が低いという見解が『公的機関ゆえに難しい』とはどういった文脈でしょうか。根拠が乏しいにも関わらずその見解は公的機関でなければ良いかのような書き方に大変な疑義を感じます。

加えて③、②ゆえに有機農産物の使用が安全性を高めるという主張は『控えめな印象になる傾向』とありますが、最早意味不明です。控えめなら科学的根拠のない事を述べて良いのでしょうか?

市民のニーズが科学的根拠より優先??

(1)基準を満たした食材を使用しており,健康リスクは認められない
このような自治体の回答からは,市民のニーズに寄り添うという姿勢が感じられない.わが子には少しでも身体に良いものを食べさせたいという心理は,親として当然であるし,食の工業化が高度に進展した今日,公的に定めた食の安全基準と一私人が思うところの食の安全には乖離があって当然である.学校給食は「自治の鏡」といわれているだけに,市民のニーズに真剣に向き合うという姿勢が大切であると思う.

報告の後半、オーガニック給食が採用できない理由に対する反駁が上記になります。
要約すると

① 子どもに良いものを食べさせたいという市民のニーズに寄り添う姿勢が感じられない
② 公的に定められた安全基準と個人の安全に対する感覚には違いがあり、後者が重要。


如何でしょうか?

恐ろしいことに、いすみ市では「市民のニーズ」が科学的根拠より優先され自治が行われている事を浮き彫りにしてしまっています。公的・科学的に検証され定められた安全性を等閑視し、一個人の感情を「自治の鏡」である学校給食に写し込むことが果たして正しい地方行政のあり方なのでしょうか?

慣行も有機も健康リスクに差異はない=有機給食に係るメリットが薄いという事実を暗に認めながらもその科学的根拠に基づいた否定を「市民に寄り添う姿勢が感じられない」と言い捨てる姿勢に私は大変な違和感を覚えました。

オーガニック給食に置いてしばしば参考にされるいすみ市の姿勢がこの有様であるならば、今後も多くの子どもたちは偽科学、非科学、あらゆるトンデモの犠牲になっていくと思わざるを得ません。

行政自らオーガニック、ひいては農業の解像度を下げるのはやめて頂きたいです。

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