【検証】#3 日本の農作物は「農薬まみれ」なのでしょうか。極限まで妥協しない農薬調査①

農業

農薬。2023年になっても事ある毎に話題に挙げられ、虚実織り混ざった情報が氾濫している今般。中でもよく聞くのが残留農薬や農薬使用量を例示に取り、

・日本の農薬使用量は世界一
・国産の野菜は農薬まみれ
・日本は中国と並んで世界でも有数の農薬大国
・日本の農作物は農薬漬けと言ってもいい

といった趣旨の意見や主張をいくつも見つけることができます。大抵は根拠となるデータがない一方、中には資料が添えられている場合もあり、実際のところはどうなのか一人の消費者として私も気になっています。

ということで今回は果たして日本の農作物は「農薬まみれ」なのかを極限まで妥協せずに調べていきたいと思います。

農薬”まみれ”をイメージしてみましょう

農薬まみれや農薬漬け…農薬のイメージは悪そうです

【塗れ】まみ-れ の意味を調べると
・名詞の下に付いて、そのものが一面に汚らしい感じでついていることを表す。(デジタル大辞泉より)

とあります。この意味の通り解釈すれば農薬そのものが農作物の一面にベッタリと付着している姿が想像できますね。

まあこれは実際のところ、

・ほとんどの農薬が数百〜数千倍に希釈されて使用されていること
・一面に農薬が付着した状態のまま消費者の手に届くことは通常ないこと

これが一般に周知されていないためかなと思います。

早い話、農薬を悪だと断言した行き着くその極北が「農薬まみれ」という言葉を選んでしまうのだと考えています。そもそも農作物が農薬にまみれることは普通あり得ませんし、あってもごく短期間で分解・無害化されていくものがほとんどです。

通常は水で1000倍や2000倍に希釈されますので、どちらかというと水まみれです。水。
ただ、農薬まみれと聞くと如何にも毒々しい薬がたっぷり被った農作物をイメージしてしまいますよね。

これはつまり、過度に農薬を忌避する”思い”から「まみれ」という言葉を主観的・恣意的に使う事例が多く、言葉自体は元より適切ではないと言えると思います。「農薬漬け」などの言葉も同様のことが言えるのではないでしょうか。

何が「農薬まみれ」と言わしめているのか

語句の意味をしっかり理解して、農薬について少し調べるだけで「農薬まみれ」という言葉が不適切であることはわかります。

しかしながら毎日の様にSNSではそういった言葉が飛び交っています。(古〜いデータと共に)

なぜそのような事態になっているのか、これを明らかにするには当該文言の前後の文脈にある「日本の農薬使用量は世界トップクラス(あるいは一位)」や「日本は中国と並ぶ農薬大国」といった何かしらの根拠と推測できる部分に焦点を当てていく他ありません。

「世界の国々と比較して日本の農薬の使用量が多いから国産野菜は農薬まみれである」というロジックも、内情を詳しく知らない限りは確かにその通りなのでは?と思っても不思議はないと思います。まずはその明快かつ単純な論拠について調べ倒していきます。

農薬使用量(kg/ha)のいろいろ

年によってばらつきが著しい。単年度だけで判断するのは早計かも

それでは各所で引用されている「農薬使用量」そのものについて説明していこうと思います。

これらはインターネット上から集めた既存のグラフになります。
「耕地面積1ha当たりの国別農薬使用量」は、文字通り田んぼや畑1haあたりに、どのくらいの農薬(kg)が使用されたのかを端的に表したものになります。

実際には作物や地域によってばらつきがあるので妥当性の観点では少々問題がありますが、「使用農薬量」と「耕地面積」から割り出されるシンプルな指標は情報の受発信としてとても使いやすいものと言えるでしょう。

それだけに、こういった情報を鵜呑みにせず「本当かな?」と考えることが重要だと私は考えています。その証左に今ここにあげたグラフを見ても、てんでバラバラなのがわかると思います。

出典が色々ありますが、これらのデータの大元を辿るとほぼ全てが「FAO(Food & Agriculture Organization of the United Nations)=国際連合食料農業機関」という組織の情報から作られていることがわかりました。

FAOは世界の食料安全保障と栄養向上に関する情報や課題についての情報発信や意識啓発、また、日本政府や国内組織との連携強化を目的とした一連の活動を実施している組織であり、FAOのオンラインサイトでは農地面積や農薬使用量はもちろん様々な指標を調べることができます。

どうやらデータの大元は中々信憑性のある組織の様です。サイトは英語表記ですが…

ネットで色々調べていると、農薬使用量を表したデータも様々。年によって使用量に多寡が出るのは農業では一般的ですが、例えば画像左上と右下、同年のデータでも数値が違ったりします。それらを見て私が疑問に思ったことがいくつかあるので列挙しておきましょう。

① なぜ「主要国」の農薬使用量に限るのか?
② 「主要国」の定義は?
③そもそもここでの「農薬」と「耕地」の定義は?

とりあえずこのくらいです。

主要国って何?

①と②は合わせて考えていきたいのですが、なぜ農薬使用量をグラフにまとめる時に「主要国」のデータに限られるのでしょうか?主要国でない国では農地がなかったり、農薬が使われていなかったりするのでしょうか。

例えそうだとしても、ランキングとして順番を表す以上全ての国を表記しなければフェアとは言えないと思います。単に一般的に知られている国だとわかりやすいからなどという理由で名の知れた国を選んでいるというのであれば言語道断です。

また、主要国の定義を調べると、国際的な首脳会議の1つである「主要国首脳会議」の構成国を主要国と呼ぶそうです。この場合はフランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダ、ロシアの8カ国ということになります。おそらくこの意味での主要国ではないでしょう。

他には、RIETI(独立行政法人経済産業研究所)という組織が主要国分類一覧というものを出しています。それによれば主要国は下記の一覧となる様です。

いかがでしょうか。そうなんです。日本が入ってません。笑 となると上にあげた2つの意味ではなさそうです。

一般に使用されている「主要国」の定義は曖昧なものであり、誤解を恐れずに言えば主要っぽい知名度のある国が恣意的に選ばれているまであるということになりそうです。
妥協しやがって…

「農薬」と「耕地」の定義

FAOにて農薬使用量を調べる前に、それぞれの語句の意味の定義を確認しておく必要があります。ここがズレると、統計結果に大きな差異が発生してしまう恐れがあるためです。というわけで、各ページにあるデータセットインフォメーション(標本情報)を調べて把握しておこうと思います。

まずは「農薬」。

(要約)
FAOの農薬使用領域には、主要な農薬グループと関連する化学物質群の農業使用に関する統計が含まれています。データは1990年から2020年までの国別、世界規模で配布され、毎年更新されます。データは、有効成分の量で提供されています。

ここで重要なのは農薬の使用量は「有効成分」で計算されているということ。例えば家庭菜園でもよく利用されているアブラムシ等の殺虫剤「オルトラン粒剤」の場合、その有効成分アセフェートは5.0%であり一袋3kgのものであればアセフェート150gが農薬使用量として計算されていくようです。

(補足説明)
農薬使用データベースには、主要な農薬グループ(殺虫剤、除草剤、殺菌剤、植物成長調整剤、殺鼠剤)および関連する化学物質の使用に関するデータが含まれる。データは、農作物や種子に使用された、あるいは農業部門に販売された農薬の量(有効成分量トン)を報告している。単一作物への散布量に関する情報は入手不可。

農薬の定義としては、殺虫剤や殺菌剤、除草剤の他植物成長調整剤、殺鼠剤も含まれています。ブドウに使用されるジベレリンやトマトやナスに使われる4-CPAも農薬に含まれるので、何かしらを撃退・殲滅するもののみが農薬というわけではない様です。

農家の私としても、あまり植物ホルモン剤が農薬であるという認識はなかったのが正直なところです。使わない農薬に対してもしっかり勉強していきたいものですね。
また、農薬の使用量は農業部門に販売された農薬の量から計算されているパターンもあり、作物別の散布量については入手できないみたいです。

つまり「農薬」とは農作物及びその周辺の環境を改善ないし成育を促進する薬剤の呼称という認識で良さそうですね。単一作物ごとの使用量が分かればなお良かったのですが、流石にそれだと統計を取るのに手間がかかり過ぎるのでしょう。
世界各国の農薬使用量がネットで調べられるだけでも感謝しなければなりません。


次に「耕地」です。

(要約)
1990年から2016年までの国レベルでの農地面積(耕作地と永年作物の栽培地の合計)あたりの農薬使用量に関する農業環境指標。

耕地は即ち農地のことを指しているようです。農業関連のカテゴリーには、
・Agricultural
・Agricultural land
・Cropland
・Arable land

などいくつかの項目があります。どのカテゴリが使用されているのでしょうか。それぞれ中身を見ていきます。

(Agricultural)
「一時的作物の栽培地」、「一時的牧草地および放牧地」、「一時的休耕地」、「永久的作物の栽培地」、「永久的牧草地および放牧地」、「保護被覆のある土地」の面積の総計である。このカテゴリーには、耕作地、休耕地、自然に生育した永続的な草地や牧草地で、放牧、動物の給餌、農業目的に使用されているものが含まれます。農家の建物や庭、その付属施設の下にある散在する土地や、未耕作地、土手、あぜ道、溝、岬、肩などの永久に耕作されない土地も、伝統的に含まれる。

(Agricultural land)
作物栽培と畜産に使用される土地。Croplandと恒久的な牧草地と牧草地の面積を合計したもの。

(Cropland)
農作物の耕作に使用される土地。耕地と恒久的な作物の面積の合計。

(Arable land)
一時的な作物、一時的な牧草地や放牧地、一時的な休耕地の下の面積の合計。耕作地には、耕作可能であるが通常は耕作されていない土地は含まれない。

なるほど、この中から最も最適な項目は「Cropland」で間違いなさそうです。何も考えずにAgricultureを選択してしまうとかなりの誤差が生まれてしまうことでしょう。農薬使用量を直接調べることのできる Pesticides indicators のページでも、やはりCroplandがメタデータとして使用されています。

さて、これで各項目の意味するところは詳らかにすることができました。
次回は情報の真偽を確かめるべく、次回は英語が大嫌いな筆者が何とかFAOのサイトを使って農薬使用量のデータを抽出していきたいと思います。
実際のところはどうなのか、実に楽しみです。


それでは今回はここまで。ありがとうございました。

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