日本の農業は世界的に見ても補助金への依存度が高い「農業保護重視型」であり、スイスや韓国、ノルウェー等がこのタイプ。税金の無駄遣いだ!と熱くなるのも分かるが、なぜ多く補助金を出して保護するのか、その理由を冷静に考えてみるのはどうだろうか?
理由①地理的・自然条件が厳しい
山がちで平地が少なかったりすると大規模化・集約化に限界があり生産効率が悪くなるため、結果的に増大するコストをカバーする必要がある。
日本🇯🇵→国土の約7割が山地で農地が狭小・分散しており中山間地農業が多く市場競争に不利。加えて地震や台風等の自然災害が多くリスクが大きい。
韓国🇰🇷→水田に依存した農業で国土条件は日本に似て農地の効率性が低い。これに加え北朝鮮との緊張もあり食料安全保障としての自給体制を重視。
スイス🇨🇭→アルプス山脈に囲まれた山岳農業。狭い国土と山がちの地形は農地効率が低い。牧草地・酪農が中心で自由貿易で不利な条件。農業は景観・文化・生物多様性維持の担い手として重視される。
ノルウェー🇳🇴→北緯60度以上で冬季が長く寒い。短い生育期間と地形的制約がある中でも国内生産を維持するために高水準の補助金が必要となっている。
理由②農業人口の態様
業界を担う人材の構成や数は、国家がそれを保護するかしないかの重要なポイント。
日本🇯🇵→高齢化が進み後継者不足。農村の人口減を食い止めるには所得補填と農地保全が政策的に必要。これは農業が地域社会の維持に不可欠という根強い論理に基づく。ただ全ての地域の存続を目指すべきかは疑問。
韓国🇰🇷→日本より農業人口比率が若干高いが都市への人口流出は同様で、米農家を重視する歴史的価値観も支援の正当化根拠となっている。
スイス🇨🇭→少数精鋭の農家が環境保全・国土保全・観光資源維持も担っている。農業は単なる食料供給ではなく、地域の多機能的存在として重視。
ノルウェー🇳🇴→農業人口は少ないが農村と自然との共生モデルを維持するために国が農村支援を「福祉的」に位置付けている。
理由③主要農産物・産業構造
その国がどんな農産物を作っているか、またその生産の仕組みが影響。
日本🇯🇵→米が主要作物であり、戦後から食料・文化・政治の中心的存在。米価の安定は農村の安定と直結しており、保護が続く。
韓国🇰🇷→米が国民食であり、国家アイデンティティの一部。価格下落は社会的動揺を生むため、国家のメンツとしても価格支持が維持されている。
スイス🇨🇭→牧草、酪農が中心。地形的制約に適応した小規模農家が多く、工業的農業は困難。有機農業の比率も高く補助金はその方向に集中している。
ノルウェー🇳🇴→酪農や水産業が中心。特に酪農は地方経済の基盤で地域維持のための支援として正当化されている。
理由④政治的背景
これは言わずもがな、農業が政治においてどのように影響力を及ぼしているのかは農政に直結。
日本🇯🇵→JA(農協)の政治力が戦後長らく強く、農政=票田確保の手段でもあった。農協の信用事業・共済事業を始めとする総合農協の特性から財政面でも強い立場を確保している。
韓国🇰🇷→保守層や地方の選挙においては依然農家の支持が重要。加えて農村出身者が政界に一定数存在し、農政重視の文化が維持されている。
スイス🇨🇭→国民投票文化が強く、「国産農産物保護」憲法規定など農業保護に関する施策も直接民主主義で可決された経緯がある。農業は国民的合意に基づく公共政策としての位置付け。
ノルウェー🇳🇴→労働党や中道左派が支配する福祉国家モデルの中で、農業も「地域福祉・食の福祉」として扱われる。農政は社会政策の一環。
理由⑤ 食料安全保障
外国に食料を依存することへの懸念が強い。戦争やパンデミック時の備えとして重要視する動きがある。
日本🇯🇵→低水準の食料自給率に加え、有事・災害・輸入不安への備えとしての国内生産の維持が国是に近い。最近の米価高騰に係る諸政策はこの点で従来と異なる。
韓国🇰🇷→自給率は日本よりやや高いが、米依存度が極端に高く他品目は低自給。先述の北朝鮮情勢も踏まえ安定供給へのこだわりが強い。
スイス🇨🇭→50%程度の自給率だが残りもEUとの関税調整で輸入。「最低限の自給能力の保持」が政策目標。
ノルウェー🇳🇴→自給率は約40%。寒冷地で大規模自給は困難でも地域生産を維持することで有事対応力を高める方針。
理由⑥ 環境保全・地域維持
日本🇯🇵→ 環境保全型支援は拡大中だがまだ従来型(価格支持、災害補填)が中心。近年有機農業・環境直接支払の導入を進行中なものの効果があるかは疑問。
韓国🇰🇷→環境との連動は限定的。環境型農業の支援制度は存在するが全体支出に占める比率は低い。
スイス🇨🇭→支援金の多くが「環境・動物福祉の基準を満たすこと」を条件に支給される。公共財としての農業が重視される政策哲学が根本にある。
ノルウェー🇳🇴→気候・生態系保全とセットで農村支援が行われている。「環境・文化・農業」のトリプル保護構造が政策の柱。
まとめ
これらの国を総合的に見ると、手厚い保護政策は単に「農家を助けたいから」とかそこに利権がどうこうではなくて、
● 地理的条件
● 国土・地域・環境の維持
● 国民生活・文化保全
● 社会政策・食料安全保障
といった多様な観点から農業を「産業以上のもの=文化・社会の基盤=国家の礎」として扱う事で補助金政策を採用していると考察できます。自分の住み暮らす国の特性をよくよく鑑みて農業をどのように捉えるかは、本来国民ひとりひとりの責務といえるでしょう。貴方は農業を何と心得ますか?
コメント