【技術】#4 定植後の灌水について

農業

今回は定植直後の灌水について考えます。

定植直後には基本的に灌水が必要です。晴天が続き乾燥した土壌なら尚更必要と思うのが当然です。
当たり前ですが、一般的に定植直後の灌水は植えた苗に水をやるために行います。これを読まれている家庭菜園をやっている方はまず間違いなく同義の灌水をしていることでしょう。もしかすると農家の方でしたら、違う見解を示すかもしれません。
そうです、我が家の場合は苗の水やりのための灌水をしません。私がやるのは前回の記事にもあった通り、
畝の表面に硬質層を作り土中水分を閉じ込め、更に除草効果を期待して行うものです。

これが一体どういうことなのか、順を追って説明していきたいと思います。

地表から40〜50cm深くでやっと水分を含んだ土壌がある

上の図の様に、乾燥した土壌に畝をたて定植したとします。苗の周りは乾燥し切っており、大変厳しい環境です。こうなるともちろんスプリンクラーなり、多孔ホースなりで灌水をするわけですが。。

このヤバさ、なんとなくわかりますかね

乾燥が続いた時の1、2時間の人工的な灌水程度では自然降雨とは比較にならないほど染み込まず、更に不均一です。定植後も晴天が続いたり、風が強い様ではお話にならないのは自明の通りでしょう。さて、この状態が論外なのは農業に携わる方にはそんなこと言われなくても、と言った感じではないでしょうか。当然、灌水をもっとたっぷり行うことでしょう。

乾くと表面はさながら塩ビの様に水を通さなくなる

乾燥した大地を降雨後の様な湿った土目にするのにはかなりの時間が必要です。それは、著しい乾燥(=液相が限りなく少ないこと)と、地表面の土の気相が0%になり、水分がスムーズに浸透しなくなってしまうことが原因です。これは、「気相が液相になる=水分が土壌に浸透する速度」が「灌水による水分の導入量」より遅いことによるものです。スポンジに水を強めにかけても、全て吸収されるわけではありませんよね?
土壌性質にも左右されますが、基本的に水をかけた量に対して、水が染み込む量というのはイコールではありません。水分はゆっくりと孔隙(固相と気相を合わせていう時の呼称)に浸透していきます。故に、急いで水をかけても中までしっかり湿るとは限らないのです。そして、人工的な灌水は水に圧力をかけて行うものですから、少なからず水圧のある水が地表面を叩くことで、地表面の土壌の三相分布における孔隙が塞がる=割合が減るということになります。要するに土を水圧で押し固めるということになります。孔隙が減りより水分の浸透速度が低下するため、灌水しているはずの水は地表面を流れていきます。これが俗にいう”水が走る”という現象で、こうなった地表面は乾燥すると硬くなり、いわゆる「皮のはった」大地になるわけです。

せっかく灌水したつもりでも、浸透速度を超過した状態での水は全て畝の溝へと流れてしまっているのです。このことから導き出せるのは、しっかりと灌水するには水量ではなく灌水時間が重要ということですね。

一旦立てた畝に中まで水を浸透させるのはかなりの時間を要する。

3時間以上の灌水でやっと定植した根域部まで浸透することが期待されます。これだけやれば、確かに定植した苗の根域をカバーすることができ、活着させられるでしょう。しかしここで問題なのは、地表面から数十センチ水分を得ただけで、依然として40〜50cm下にある水分を含む土壌との間に乾燥した土壌が挟まれているということです。この状態では、乾いている下の土壌と、地上の日射と風、そして苗の根が水分を吸い上げることによって畝全体の乾燥が早くなります。

例えそのまま畝の上部が一定の水分量を維持できたとしても、定植した苗の根域が広がり、乾燥部分に到達するとそこで苗自体に負担がかかり、結果的に枯死や生育遅延、病害の発生へと繋がってしまうのです。

ではそうならないためにはどうすれば良いのか。それは、長い時間継続的に灌水し地中深部にある水分を含む土壌と、灌水して水分を含んだ土壌とを接合させることがポイントとなります。半日以上灌水すれば地中にも十分ですが、あまりに長時間の灌水は逆に苗にダメージとなったり、病気をもらいやすくなる可能性も高くなります。

サークル状に灌水するスプリンクラーでは、殆どかからない所が目に見える

そもそも、できる限り均一な量を均一に灌水しようと思っても、スプリンクラーや多孔ホースでは物理的に均一にやるのは不可能です。構造上の問題もありますし、風が強かったりすると全くかからないところまで出てきてしまいます。しっかり時間をかけて灌水を行ったつもりでも、水分の多すぎるところと少なすぎるところがどうしてもできてしまい、結果的にこれが作物の歩留まりに影響してくるのです。

灌水の行き届かない畑の隅は…

とにかく一番ダメなのは、水をかけたつもりで中はすっかり砂漠になっていることです。乾燥畝に1〜2時間程度の灌水だと完全にアウトです。少ない水分量のまま地表面が硬質化すると、一旦乾燥した後の浸透性が著しく悪化します。徒らな灌水は、取り返しのつかないことになりかねませんので注意が必要です。

ところでこの定植後の灌水の方法は、そのやり方によって収穫までの雑草の程度を決める重要なセクターでもあります。このことに関しては記事を改めますが、灌水は苗と同時に雑草の種にも水分を与えているということを覚えて置いてください。

それでは今回はここまで。

ありがとうございました。

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