農業にかかるコスト
先日の記事の中で述べさせて頂いた通り、まずはコスト面からアプローチしていこうと思います。
農業を行う上ではいろいろな経費がかかりますが、その割合は種子や苗の費用が大きくなる傾向にあります。故に、地床苗とセル成型苗でどこまで違いがあるのかを明らかにするのは大変な意義があると思いました。
種(苗)のコスト
地床苗は、一般的に裸種子(何も表面に加工をしていない種のこと)を直接播種床に播き育苗します。セル成型苗はセルトレイのセル1つ1つに播種をすることになりますが、その殆どはコート(ペレット)種子になります。
※近年セル成型苗でも裸種子の使用が増えてきているようです。
コート種子は種子を造粒材で包み丸粒状に成型することで、種子の大きさを一定にすることができます。セル苗では種の形状を一定にして播種精度を上げているのですが、地床苗で使う裸種子よりコストは高くなります。
また、セルトレイや培養土などもコスト増の要因になります。地床苗は、育苗スペース分の畑地面積が犠牲になりますが、最終的にそこにも定植できるため、空間的損失は最小限に抑えられます。
設備投資のコスト
屋外で育苗管理する地床苗と比べ、一般的にセル成型苗は育苗ハウスが必要となります。ハウスを立てるコストだけでなく、温度管理が必要なら光熱費もかかりますし、ハウスが育苗専用のスペースになることにより、年間の稼働率が低いとそれだけで空間的損失が半永久的に続くことになります。
一方地床苗は苗の保存に冷蔵庫を用意する必要があります。導入コストがハウスよりかかりますが、冷蔵庫は苗の保存以外に苗取り時や収穫時に使う氷の保冷、飲料や家庭で消費する食品の予備庫など高い汎用性があります。
何より、苗の長期保存が可能になります。適期の限界を心配しながら定植に追われることがないということは、キャベツ農家からすればかなりの精神安定剤となるでしょう。
また、地床苗は一般的に育苗畑地に対し土壌消毒を行うためその分もコストがかかりますが、セル成型苗は土自体を購入することを考えると、やはりトータルで見ると地床苗の方が低コストで済むでしょうか。
ただ、苗床に適した圃場が確保できない等環境的に難しい場合は、苗の生育を順次一定の面積(ハウス分)で回転させられるセル成型苗の方が良いでしょう。セル成型苗を採用する場合は、非育苗期のハウスの使い方をよくよく考えなければなりません。
キャベツやレタス等の葉菜類はセル成型苗用の定植機の開発が進んでいますが、地床苗の定植に使う半自動定植機が50〜60万程度で購入できる一方、セル成型苗の全自動定植機は一般的にその倍以上の価格がします。その価格は、年々上昇しています。
また、半自動定植機は構造が簡単で点検整備・修理が用意でランニングコストに優れますが、全自動定植機は複雑な機構をしており自身での点検整備・修理が難しく、どうしても専門業者に頼らざるを得ない状況があります。
地域によっては農機会社が定植時期前に点検整備を一律に行う催しを開くなど、恒常的なコストがかかることも懸念されます。構造が複雑なため、当然に故障頻度も高くなります。
発芽率と育苗ロス
種には種苗業者によって保証された発芽率があり、一般的に裸種子の方がコート種子より発芽率が高くなっています。これは、コート部分が種子の発芽に際し障害となること、コートを圧着させる際の熱処理によって種子そのものに熱ダメージを与えてしまうことが発芽率の低下に繋がっています。
しかしセル成型苗の殆どがコート種子を使わざるを得ないのは、手播きでない限りセルひとつひとつに正確に播種作業を行うには、均一な大きさであるコート種子でなければならないためです。
播種はしやすいですが、その代償はコスト高と発芽率の低下だけでなく発芽により多くの水分を必要とし、種子自体の寿命が短い等リスクを包摂しているのです。
また、セル成型苗は1セル1苗と言う性質と全自動定植機の構造上、育苗の個体差を加味して定植することができません。つまり、播種した苗を使うか使わないかを選択できず、保険として生育の遅れた苗を残しておくことができないため、発芽率の低さと老化の早さも相まって栽培予定面積に対する計画育苗総数がどうしても多くならざるを得ないのです。
保険的に育苗ロットを増やした分、売れればまだ良いのですが余ったら誰かに融通するか、破棄するしかありません。
一方、地床苗は大地を播種床とし育苗するため、苗取り作業の段階で適切なサイズのみを選びとることで、1番、2番、3番と生育の遅れている苗を残し、保険とすることができる点で育苗ロスを最小限に抑えることができるのです。
種の価格も安価なので、余りが発生しても大きく痛手を被りません。そもそも、セル成型苗は定植適期が地床苗より早く、植物体が小さいため個体差を見極めること自体が難しいのです。
地床苗の生育具合を見ているとわかりますが、個体差によって極端に矮小な苗が一定割合で出てしまうものなのですが、そう言った生育遅れが確定しているような苗でもセル成型苗は分からずに定植していることになるのです。
種子1粒あたりにかかるコストがセル成型苗は高く、1つでも無駄にしたくありません。対して地床苗は捨てる苗あれば拾う苗あり。生育の良し悪しを見ながら、苗のペースに合わせて無理なく定植していくことができるのです。
ただし、コストが必要でない分、技術力が必要なのも地床苗です。
病害対策のコスト
育苗期間の長い地床苗は、その間は苗床への集中防除によって農薬の使用量を抑えることができます。セル成型苗は育苗期間が短く早い段階から定植により本圃に移ります。そのため、地床苗では播種床で行う防除作業期間が、セル成型苗では本圃での防除作業期間となり、労力も余分にかかることになります。
農薬の使用量も段違いとなりますが、定植が早く害虫の生育サイクルが早い時期に植えるセル成型苗では防除は避けられない仕事となります。その上、植物体の小さい段階での本圃での防除作業は、実に90%程度は土にかかり農薬の無駄遣いとなってしまうのです。
今回はここまで。
ありがとうございました。
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