露地栽培農家にとって、収穫後から来シーズンに定植するまでの間、本圃ではどうしても雑草が生えてくるものです。憎き雑草に対し農家は様々な方法で対処するわけですが、今回はどの方法が最も最適なのかを比較しながら考えてみたいと思います。
畑地の雑草に対する対処法として代表的なものを1つずつ、考えて行きます。
トラクターでの耕運除草
ロータリーで耕起して雑草を退治する方法が私の地域では最もメジャーです。メリットとしては耕運することで直接草をなぎ倒し切断するので、仕上がりが顕著にわかります。「草を退治したぞ!」と言う満足感はこの方法が一番得られやすいでしょう。
ただ、得られるのは満足感であって、この方法は実際には様々な問題を抱えていると私は考えていますので列挙致します。
耕起による埋土種子の露出
確かに耕起によって地表面に生えている雑草は一網打尽にできますが、畑地の土中には休眠している雑草の種子がたくさん埋まっているわけです。ロータリーをかけることによりこれらの種子が地表面に露出するため、土壌の三相分布における気相の増加もよろしく、土壌水分が豊富だったり作業後に雨が降り発芽条件が整うとあっと言う間に草原が復活してしまうのです。
また、草丈の小さいうちは良いのですがあまりに大きくなってしまうとロータリーの爪に草が絡まってしまい、逐一除去しなければならないというとんでもなく面倒な事態に陥ることもあります。パワーのある大型トラクターなら良いですが、雑草が復活するたびに出動するのも中々手間というものです。
コスト
トラクターの耕運除草は手軽に行えますが、実は結構なコストがかかっています。トラクターの燃料である軽油や消耗品であるロータリーの爪の摩耗、そしてトラクターと言う機械自体も消耗します。お金をかけて雑草の種子を表面に出して条件を整えてしまうなんて、よくよく考えると虚しくなってきてしまいます。さらに良くないことに、次項の理由から潜在的なコストがあるのです。
土壌環境の変化
土壌地質にもよりますが、基本的にトラクターで耕運すればするほど畑を痛め、団粒構造を破壊し、荒らしてしまうことになります。一番良くないのは粘土質の圃場で繰り返しロータリーを当てたことによって土を”練って”しまいガチガチのゴロゴロにしてしまうことです。
こうなると定植も中耕も追肥も収穫も全部悪影響が出てしまいますので注意が必要です。そして全ての圃場に言えるのが、一度耕運をすると言うことは、土壌の三相分布における孔隙(こうげき:気相と液相を合わせた隙間のこと)が増加することと同義です。
つまり、耕起によってフワフワ、スポンジ状になった土壌なるわけですが、これが後の作業にどう影響するか考えてみてください。
例えば耕起した土壌に雨が降ったとします。そうすると孔隙の多い土に大量の水が染み込みます。激しい雨が降ると、地表面は雨勢の圧力によって孔隙が減少します。つまり表面に皮の様な固い層が形成されます。表面の硬質層は固相がほとんどなので乾きが早く、一見すると圃場全体が乾いた様に見えますが。。
この時土中には信じられない量の水分が閉じ込められているのです。すなわち、一度耕起してしまうと、土壌改良や定植作業を行うにあたっての圃場の条件が最適化されるのが見えにくく、土中の乾燥に時間がかかるのでタイミングがよりシビアになると言うことです。
私の地域では9月頃は定植の最盛期とも言えますが、降雨量が梅雨並の月に耕運除草をやってもし雨が多いと、中々圃場に入れずタイミングを逃しかねないのです。セル成型苗の農家にとっては死活問題である定植適期のタイミングに、土壌水分のシビアなタイミングが重なればもう最悪です。
表面だけは乾いた様な顔をしますので、騙されて入ったトラクターがスタックしかけて慌てて脱出した様な”痕跡”がたまに確認できます。笑 しかし、それだけ追い詰められていると言うことでもあります。
もしドロドロベタベタの条件で無理矢理定植しようものなら(してる方もいますが)、定植の作業効率は悪いわ、ガチガチになって中耕はやりにくいわ、草は生えるわで良いことが1つもありません。
この様に、トラクターでの耕運除草は簡単が故に皆やってしまいますが、 実は色んな問題を抱えており、長い目でみた前項にある「コスト」の高さを理解しておかなければなりません。
刈り払い機での除草
刈り払い機は草刈機やハンマーモアなどがあり、面積の小さい農家の方には臨機応変な使い方が可能ですが、大面積での使用は負担が大きく現実的ではありません。ハンマーモアなどは効率よく草を刈れますが、コスト面が高くついてしまうのと、機動性(圃場から圃場への移動)にも欠け、平坦な畑でなければ上手く使うことができません。
年中使うわけでもないので、稼働率から考えても微妙です。法面の除草には草刈機が有効な場合もあるので、他の方法と合わせた補助的な運用が刈り払い機の現実的な使い方ではないでしょうか。
除草剤での除草
私のところでは、この除草剤を使った除草を採用しています。除草剤は、他の方法と比べ低コストで済み、適切な使用方法をすれば安全で、確実に雑草を抑えることができるからです。除草剤によって枯れた雑草はそのまま植物体を残しますので、次なる雑草が生えてくるのを抑制することができます。また、耕運しないので土壌の三相分布の割合を大きく変えません。これにより、土壌に必要以上に水分が入ってしまうのを防ぐことができ、入りたい時に畑に入れる様になるのです。
また、雑草を生やしたままにしておけば、大雨時の土の流亡を抑えることができます。耕運してある土壌は、豪雨に晒されると著しい土壌流亡にみまわれますので、草が生えていると言うことが一定の意味をなしていると考えられます。
草を残すことで雑草の種を増やしてしまうのではないか、と考える方もおられると思います。しかし、生えてくる雑草の種は所詮地表面に近いものだけですので、適切な除草処理をすれば種子の多寡はあまり関係がないのです。もちろん多ければ多いほど草は生えますけどね。笑
ひとつ確認しておきたいのが、雑草処理をする上で草を100%完全に取り除くことが目的ですか?
それこそが雑草処理に対する姿勢の正誤が別れるところで、如何に完璧な除草を心がけたところで草の種はどこからともなくやってくるので、いずれはまた生えてくるもの。そうとなれば、雑草処理をするたびに完璧を目指すことがあまり意味がないのがご理解いただけるのではないでしょうか。
定植する前にまたトラクターで耕起する時に、爪に絡まることなく畝が立つ程度なら当日まで草を残したって構わないのですから。除草剤も、完璧に雑草全てにくまなく均一に散布しなくても良いのです。私のところでは、収穫が終わった段階から除草剤を散布し、土壌へのダメージを最小限に抑えつつ最適な条件を定植時に迎えられるよう仕上げていきます。
手に負えない草丈になる前に除草剤で大人しくしていてもらう。草をある程度残すことで土壌の流亡を不正でもらう。
雑草すら利用すれば、よりコストを抑えられますね。使う除草剤もそんなに高価なものを選ばなくても構いません。安価な除草剤で手に負えないレベルにならない様抑え、除草剤を使うと迷惑になる場所は草刈りで対応するなど組み合わせるのが効果的です。
私のところでは収穫物の残渣も定植までロータリーにかけることがないので、あまりの姿に市役所から耕作放棄地にしてるからちゃんと管理してくださいね、と言う 旨の文書が届くと言う笑える話があったり。
畑のお守りも、やり方ひとつ。より簡単に、それでいて次の作業に活きる様に。
それでは今回はここまで。
ありがとうございました。
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