【技術】#1 雑草を生やさないための工夫

農業

画像は雑草に埋め尽くされた見るも無惨なキャベツ畑です…農業を営む上では、雑草との戦いがつきもの。

今回は無限とも言える雑草をなるべく生やさないある「工夫」をお伝えします。

生やさない為の”水”

見出しから答えを書いてしまっていますが、その通り雑草をなるべく生やさないためには、”水”を上手く利用することが重要になってくるのです。
水があたかも除草剤のように草の発芽を抑制してくれるという、一聞では信じられないような使い方ができることをご存知でしたでしょうか。

その方法は至ってシンプルなもので、

少量の水やりの後、乾燥させる

…これだけなのです。

生かすも殺すも水次第

植物の種子にはこんな性質があります。


植物の種子は、一度水分をもらい発芽のスイッチが入った後に乾燥すると、2度と発芽しなくなる。

この性質を利用することで雑草を生えなくするのです。

連続性を絶った水は、水分を吸って芽吹こうとする種子が水切れを起こし枯死させることができるのです。
これが「殺し水」です。ちなみに命名は私が勝手にしました。
:短時間にザーッと雨が降った後、風の強い快晴になるとき

逆に連続性をもった水では、種子は発芽行程を難なくこなし根付くことができます。
これが「生き水」です。ちなみに命名は私が勝手にしました。
:数日間、シトシトと雨が降り続いたり、雨が上がっても曇天で風が凪ぐとき

植物の種は発芽の初期行程ではまだ根が出ていないため、ごく近くの水分を利用するしかないのです。十分に発根する前のタイミングで水分を失うと、やがて種は死んでしまいます。長期間雨が続くと雑草が勢いよく生えてくるのは、雨が全て連続性をもった生き水となることで、遍く大地に転がる雑草種子たちを目覚めさせてしまったというわけなのです。

植物の生殺与奪の権を握るのは、実は水であったりするわけですね。

作物の定植≒雑草の播種

ひとたび水の扱い方を間違えると…

意味がわかると怖い例え話をしましょう。

当地域のキャベツは、セルトレイと呼ばれる小さなポットが連結したパネルで育てる「セル成型苗」か、種子を畝に撒き密植させて苗床として育てる「地床苗」という栽培方法があります。どちらもある程度成長させてから本圃(収穫までそこに植えられる畑のこと)へと定植するため、移し植えるという作業の後はどうしても水をかけたくなるものです。

例えば鉢植えの植え替え作業でも、その後にはたっぷりと水をかけるのが一般的です。しかし農業としての移植作業は膨大な面積になりますから、灌水=水やりには結構手間がかかります。だからこそ、移植作業は雨がふる前日に行うのが好まれています。

ところで、露地の畑は放っておくと草が次々と生えてくるように、土の中にはたくさんの雑草種子が休眠しています。では、作物苗の定植のために予め畑を耕すとしましょう。すると、眠っていた草の種がフワフワの作土の表層に出てきます。そんな雑草種子入りの畑に畝を立て、いよいよ作物苗の定植作業が始まります。

やがて圃場一面に苗が植わった時は、何年やっていても達成があるものです。そしてその日の翌日から数日雨が降り続いたとしましょう。作物苗は水を得て大地を捉え難なく活着することができます。上手くいって一安心ですね。

…しかしこの定植作業の成功は、同時に雑草の播種(タネまき)作業の成功を意味していることがわかるでしょうか?定植作業の圃場には、種子の発芽に必要な「温度」「水」「空気」が恐ろしいことにキッチリと揃ってしまっているのです。。

土の中には多かれ少なかれ、雑草の種子が混在しています。ロータリー耕起等をすることで、土の中で眠っていた雑草の種子が地表面付近に現れ、定植時期という良好な環境も合間って発芽条件が整います。
そして、定植後苗に灌水する(又は雨が降る)のと同時に、畝の地表面付近雑草の種にもたっぷり水をかけてしまっているのです。
翌日の雨や灌水を経て、抜群の発芽条件のもと雑草は意気揚々と発芽し出すのです。

水の連続性を断つには

圃場の水の連続性を断ち、殺し水で以て雑草種子の発芽を抑えるにはどのようにしたら良いでしょうか。それには、定植する以前に圃場に水分が十分にあるかどうかが重要になってきます。定植した作物苗の根は作土の地表面より深くに植わるため、そもそも雑草種子の待ち構える地表面付近に対して水は不要なのです。

そう考えると、初めから作土に植えた苗が活着できる程度水分さえあれば、水やりはそれほどやらなくても良くなり、雑草種子に対して「殺し水」を与えることができるのです。

つまり、苗に与える下からの水を予め用意しておき、地表面の雑草種子には非連続的な水を上から与えるという寸法です。

では、圃場水分の確保はどうするかというとについては、自然降雨による水分の蓄積を期待するか、人工的に灌水を行って水分を与える必要があります。満遍なく灌水する技術が必要で、労力もかかることから殆どが自然降雨を期待することになると思います。

理想的な定植条件としては、

1:土壌に苗の活着に必要な水分量があること
2:定植翌日の天気が晴れで、翌々日に雨であること

これらを満たすのが最適なタイミングです。

問題は、どの程度の圃場水分量であれば、支障をきたすことなく定植作業を行うことができるのかということです。あまり水分量が多いと、ぬかるんでトラクターや定植機械がスタックしてしまい仕事になりません。水分の丁度良い塩梅を見極めることが大切です。

ちなみに、セル成型苗は地床苗と比べ植物体が小さく弱いため、よりシビアな水分確保が必要になります。作物の苗によっては、下からの水だけでは難しい場合があるという点も十分に注意しておくことがあります。だからこそ、世間では植えた後から丹念に灌水して活着を促すことが一般的となったのではないかと私は思ったりします。

大事なのは、定植後に灌水することがダメなのではなく、灌水を長いこと続けるのが良くないということです。

殺し水の活用とまとめ


殺し水は、お金のかからない除草方法として家庭菜園などに活用することもできます。畑を耕し雑草種子が露出した時に、ある程度灌水して湿らせたあと再び乾燥させます。大体半日くらいで表面が乾くくらいの水分で良いと思います。この水分量に限ってはそれぞれの圃場の地質や傾斜、周辺環境によって変わりますので、その辺りは臨機応変に対応して下されば幸いです。雲行きがあやしい時は実施を控えましょう。

なお、当然かもしれませんが作物の種まき直後に殺し水を使うのは厳禁です。使うのであれば、種まきの前に施すのが良いでしょう。また、殺し水を施したところは、もう一度耕してしまうと再び地中に眠る雑草種子が露出してしまうので注意が必要です。


以上、雑草を生やさないための工夫を説明しました。この方法は、100%草を生やさなくできるというものではありません。気温や湿度が高く雑草の生育が旺盛な時期は、どうしても除草剤に頼らざるを得ない場合ももちろんあります。

しかし水だけで高い除草剤や労力のいる草取りが軽減できるのなら、これほどありがたいものはないのではないでしょうか。完璧にとまでは行かなくても、少しでも軽減できるならやる価値はあると私は思います。

種子に湿潤と乾燥を与える。これがいちばん簡単で安上がりな雑草対策なのです。


それでは今回はここまで。
ありがとうございました。


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