相も変わらずインターネット上に蔓延る
「日本は世界一の農薬大国」
「日本の農作物は農薬まみれ」
というフレーズ。筆者も辟易し続けております。
この手の主張によく引用されるのは「国別農薬使用量ランキング」といったもの。
主要データ元であるFAOSTATは農薬使用量について実時間から約2年遅れて更新されます。
7月時点で2022年度の情報が上がっていましたので、少し遅くなりましたが情報をアップデートして常に正しい統計を知識として取り入れていきましょう。
少しでも多くの方が確かな知見を持てますように。
昨年と同様の措置について
昨年と同様、FAOSTATのPesticides Use のカテゴリから抽出していきます。
また、おそらく今回もLund use Cropland (耕地面積)とPesticides Agricultural Use (農薬使用量)のデータがありながら 「Use per area of cropland」に出力されない国があると考えられるので、今回も単にkg/haだけでなく面積と使用量をそれぞれ抽出してダブルチェックしていきます。
この辺りは今年も妥協しませんよ。
(昨年のデータは下記リンクから↓)
条件を確認
① 国名(countries):全ての国(各国海外領有地及び自治地域を除く)
② 要素(elements) :耕地面積1haあたりの農薬使用量
③ 種目(items) :農薬(全種類の総量)
④ 年度(years) :2022年
例によってこんな感じで調べていきます。
これと併せて、land Use の項目から耕地面積(cropland)を抽出したのち、2つのデータをすり合わせます。
さて、今回の結果は….
結果発表
如何でしたでしょうか。
2022年度現在の耕地面積1haあたりの国別農薬使用量において、日本は世界第22位でした。
では、詳細を見ていきましょう。
詳細と考察
表を参考にしながら。
グラフから、日本の耕地面積1haあたり農薬使用量は11.63kg/haであり、世界第22位。
昨年より0.39ポイント増加したものの、全体で2つ順位を落とす結果となりました。
今年も使用量の変化は誤差の範囲であると考えて良いでしょう。
今年違ったのは、耕地面積と農薬使用量のデータがありながら「Use per area of cropland」に出力されない国が「クウェート」1カ国だけだったということです。
耕地面積の狭小な海洋諸国もちゃんと組み入れられていたのでそこはちょっと安心しました。ただ、ちょっと気になる点が。
表は2つの方法の数値が異なる国をピックアップしたものです。クウェートに関しては「Use per area of cropland」では「0」ですらないNO DATA状態。
なぜなのか調べたのですがついぞわかりませんでした…今年はクウェートの農業事情について徹底的に調べることが決まりそうです。
それはともかく、他の4カ国は2方法で数値がだいぶ違うことがわかります。昨年456.28kg/haという凄まじい数値を叩き出していたセーシェルは79.19kg/ha、「Use per area of cropland」では19.5kg/haまで抑えられています。他の国も同様、最大で3倍程度の差異が発生しているではありませんか。
これらの国ではある共通項がありました。それぞれの国の計算方法の注釈となる「カントリーノート」を確認すると、いずれの国も「Data series replaced using net trade converted to active ingredients as a proxy for use.」=(データ系列は、使用量の代用として有効成分に換算した純貿易量を用いて置き換えた)という文言がありました。
詳細はわからないので推測の域を出ませんが、実際に使用している数値と異なるために使用量が補正されているのかもしれませんね。
いずれの国も多少順位は変わりますが使用量上位国であることは変わらなかったため、「Use per area of cropland」の数値を適用しました(あまり飛び抜けた数値になられてもグラフが読み取りにくくなりますし)。
それにしてもセーシェルは激減しましたね。過去なぜセーシェルが凄まじい農薬使用量を誇っていたのかは過去記事を参考にしていただければ幸いです。
最後に
終わりに大切なことを申し伝えさせていただきます。
今回の記事にて示されている「耕地面積1haあたりの農薬使用量(kg/ha)」と言う数値を、その数値だけで比較することに本質的な意味はありません。
栽培する農産物やその土地の気候等、多く考慮しなければならない要素(あるいはノイズ)があり、当該データは単に「使用した農薬量」を「耕地面積」で割った指標に過ぎないのです。
それでも人はより単純で明快な情報を好みます。よく知った国、見やすいランキング…複雑なデータを削ぎ落とし都合良く見せ、消費者の不安を煽る統計が後を絶ちません。
殊に農薬はそのイメージから悪用されがちで、いまだに「日本は農薬使用世界一」だとか「国産野菜は農薬まみれ」だとか根も葉もないことを平気で宣い消費者を騙し、財を奪う方々も存在します。
最近ではこういったデマ情報に行政組織が騙され、その拡散に加担するという目も当てられない事案が発生しています。これは他人事ではないのです。
今回のデータは、その本質的無意味さを抱えながらも上記の様な「救いようのない、どうしようもないデータ」を駆逐すべく使っていくものですし、誰にでも使って頂きたいと考えています。
単に農薬使用量で言ったらクウェートは日本の実に9倍も使っています。であれば農薬の危険性を訴える方々はまず第一にこの国を調べて然るべきでしょう。
そんなこともしないでいつまでも古びた過去のグラフを持ち出すようであれば、遠慮なくこの記事のリンクでも画像を転載してあげてください。
よろしくお願い致します。
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