#74 政府備蓄米談

農業

政府備蓄米談。是非いろんな意見感想を聞きたいです。

本来大部分が飼料米・加工用米として排出される分の備蓄米を主食用に転用して市場に放出する今回の政策。この政府備蓄米は既に存在している資産であり、既存在庫の活用で流通・保管費用を除き追加財源をあまり必要としない。

現金給付等の支援策が大きな財源を必要とし「バラマキ」や「選挙目当て」等の批判を免れない一方、現物給付(供給)である備蓄米放出は税金で得た在庫の有効活用という建て付けで正当化しやすい。米価高騰の原因である供給不足に直接対処する形を取る納得感のある対策となり、あくまで市場メカニズムを通じて価格を調整する手法であるため過度な財政介入という印象を国民に与えにくい。

この手法による供給増→価格抑制圧力の効果は即効的であり、短期的には高い効果を上げるかもしれない。在庫の有効活用という名目はフードロスやSDGsの観点からも受け入れられる。政府からすれば財政支出が少なく、市場への影響が明確であり、政治的コスト(批判)が少ないというメリットがある。悪質な転売を淘汰できるかもというおまけつき。

しかしここからが問題。備蓄米の放出という現物供給にはいくつかのデメリットがある。1つ目は米価の下落による米農家の収入の悪化。当然、安価な米が放出されれば米の市場価格は抑えられ米農家の所得に影響を及ぼす可能性がある。長期的に見れば米農家の離農に繋がり国内自給力の低下を招く恐れも。

2つ目は品質・食味のリスクで、2年以上経過した米が中心である備蓄米は新米と同等の品質というわけにはいかない。とはいえ保管技術の高さもあってこの問題は限定的だろう。備蓄米が国産米のイメージダウンに繋がるとは考えにくい。本当に問題なのはここからで、3つ目は「政府備蓄米制度」の信頼性の低下。

簡単に言えば「政府は緊急時用の米を安売りするのか?」となるが、米不足ではなく米価高騰への対応として政府備蓄米を無条件に放出するというのは備蓄米制度の本来の趣旨から逸脱している。この備蓄米の「価格調整米化」は深刻な問題で、現時点で米の供給量は減っておらず生活に支障をきたすほどの米不足・流通停止が発生していない現段階での放出は制度の乱用と捉えられかねない。

また、安価な放出は備蓄米の「再備蓄」に係るコストを増大する可能性がある。今回の政策で短期的に効果を得られたとしても、再備蓄時に価格が高止まりしていた場合コストが嵩み、長期的に政府備蓄米制度を維持できなくなるかもしれない。他にも、市場や流通業者が「政府がいずれ安売りしてくれる」と期待すると市場の自律性や競争原理が歪む。

これは米農家の恐れるモラルハザードを惹起することになる。備蓄米制度は「供給途絶リスク」に備えたセーフティネットであり、価格高騰≠供給途絶で現在は放出要件を満たしていないが、今回は特例的対応と位置付け価格高騰抑制・家庭支援という形で国民生活に対応するという流れになっている。賛否があるのは必然。

政府としては本来安く排出されていく備蓄米を活用し、低コストで米の供給を増やして国民の溜飲を下げることで高い評価を期待できる。短期的だが即効的で来たる参議院選挙にも追い風となるかもしれない。しかし問題はその後。買い戻し条件無しに備蓄米を再備蓄できるかどうか、その時のコストが高ければまたもや批判の的だろう。

そうこうしているうちに大凶作や何処かで大規模な災害が起きて「供給途絶」が発生でもすれば大変なことになる。そういう意味で政府はある種の賭けに出たのかもしれない。正直何も起こらないことを祈るばかりだが昨年南海トラフ地震が起こるかも、といった騒ぎになっただけでも買い込みが発生したのでどうなることか。

連日やんややんやと騒がれる米問題。そんな中でも米農家さんはせっせと稲作に励んでくれています。農家を守れとも助けろとも言いませんが、農業について、自分の食べる農産物について少しでも理解を深めてくれることを切に願うばかりです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました