【論考】#6 肥料設計を考える(堆肥編①)

農業

遍く日本の農家にとって堆肥は土づくりに欠かせないものとなっており、まさに堆肥至上主義とも言えるのではないでしょうか。今回はそんな堆肥について私の考え方を述べています。

はじめに

冒頭で農家にとって堆肥は土づくりに欠かせないなどと言っておきながら、うちの圃場では一切堆肥を投入していないという事実は、概略編を読んだ方ならすぐにわかると思います。

もちろん堆肥を使わないのは、その使用によるメリットとデメリットを勘案して決定している経緯があります。本題に入る前に、堆肥に関する基本的な知識をおさらいしておきます。

堆肥は土づくり

堆肥は肥料と言うよりは土づくり、即ち土壌改良資材の性格が強いです。基本的な窒素・リン酸・カリをみても、現物あたりに含まれるのはどれも数%程度と極めて少ないです。
一般的に堆肥中に含まれる肥料成分の多さは、

馬 < 牛 < 豚 < 鶏

となっており、馬が最も土作りとしての性格が強く、鶏が比較的ですが肥料の性格を持ち合わせていることになります。これら堆肥の種類によってその成分に違いがあることを覚えておきたいものですね。

成分はさておき、堆肥のメインはという話に戻りますが、土づくりは堆肥中の有機物によるものというのは周知の事実です。有機物の分解過程で放出される腐食物質や、微生物や根から分泌される粘性物質等が接着剤となり、土壌粒子が結合しいわゆる「団粒構造」が形成されていきます。

この団粒構造によって、通気性、透水性、保水性といった土壌物理性が改善します。その他微量要素の補給やリン酸の固定を抑止する化学性の改良や、有機物による微生物の多様化や有害物質の分解といった生物性の改良にも寄与します。

このように堆肥には土壌における「物理性」「化学性」「生物性」の改善改良に有効な手段と言えるでしょう。堆肥施用による作物の影響については、様々な調査がされていることが文献から確認できます。参考文献としてここに記載してしまうと如何せん論文っぽく小難しい感じになってしまうので割愛しますが、無施用と比べて同等以上の収量が認められた試験など興味深い内容も多々あります。

勿論、実際に農業を営む側から読んでいくと、やはり現場と試験の乖離は否めませんが、それでも堆肥にはある一定の効果があることは事実です。もし文献に興味を持たれた方がいらっしゃいましたらご連絡頂ければお伝えいたしますね。

堆肥を使わないという選択

前項の内容からすれば、堆肥を使わないという選択肢自体がないようにも思えます。しかし、堆肥も万能ではなく、いくつかの欠点があります。また、堆肥のリスクと併せてその使用行程にも問題があるのではないかと考えています。

リスクとベネフィットを天秤にかけた時、私のところでは堆肥を使わない選択をした次第です。

では、欠点と問題について深堀りしていきます。

未熟堆肥のリスク

この問題は比較的周知の事実なのではないでしょうか。乾燥が十分でない未熟堆肥を施用すると、普段家畜の体内に存在している有害な微生物が、原料となる糞便を経て堆肥中で生存していることがあります。これが食中毒の原因となる恐れがあります。

また、外来性雑草の侵入経路の一つとして、海外の飼料に含まれていた雑草種子が未消化のまま排出され堆肥中に入り、圃場に持ち込まれる問題が指摘されています。

うちの圃場にはかつて牛屋さんが牛糞を捨てていたところがあり、当然未熟堆肥(未熟ですらない)が毎年のように投入されていました。その牛屋さんは廃業して十数年が経ちますが、いまだにその圃場は雑草の勢いが他と段違いです。

ネット上には未熟堆肥と完熟堆肥の中間である「中熟堆肥」の施用を推奨している方もおられます。これは、完熟堆肥では有効な有機物が少なく土づくりの効果が今ひとつであるという見解でしたが、土壌改良の有効性を担保するためにかえって有害な微生物や生きた雑草種子を残すことは、あまりにもリスキーなのではないでしょうか。

他には、未熟な堆肥の施用により分解に伴う根部への有機酸障害、土壌中窒素の欠乏、アンモニアガスによる障害など、作物の生育に悪影響を与える可能性も捨てきれません。堆肥投入に対し、完熟堆肥であるかどうかの見分け方は一応様々ありますが、常に100%完熟堆肥であるのか、そこをしっかりと担保できなければ堆肥はたちまち土壌改悪の原因になってしまうのです。

例えば、新規就農した方が堆肥を投入使用とする時に、果たして未熟堆肥か、完熟堆肥か、正確に判別することはできるのでしょうか。

アンコントロールな資材

さて、堆肥の原料は何でしょうか。糞です。便です。その他稲藁など様々ありますが、押し並べて言えるのは自然物であるということです。つまり、その成分は一定ではないということ、そして有機物を多量に含み、その分解によって成分放出が行われるということから、堆肥は極めて制御のできない資材であると言わざるを得ません。

堆肥の成分は、畜種など原料、餌、個体差など、時期や地域によっても様々です。勿論調べれば大まかな成分は算定することができますが、数多の個体から集成した堆肥が算出値通りの成分なのかは、最早信じる他ないのです。

 次に、堆肥はその有機物の分解によって肥効を発現させます。この分解スピードは土壌微生物と水分の多寡に影響されます。土壌微生物もそうですが、問題は水分です。微生物は乾燥している状態より湿っている状態の方が活発に活動します。カビなどの菌類と同じですね。

つまり雨が多いと肥効が大きく出やすいという性質があります。これは一般的な化成肥料にも同じこと(メカニズムは違いますが)が当てはまりますが、化成肥料が短期・即効性なのに対し堆肥は長期・緩効性という点に注目してください。

化成肥料は、その短期即効性を利用して必要な時になるべく目的の成分補給に努めることができます。翻って堆肥は、例えば雨が長続きすればするほどいつまでも冗長に肥効が出てしまうのです。

これは、堆肥投入を重ねてきた圃場であればあるほど顕著に現れますが、数年単位で施した堆肥の分解速度を、天候を読みながら栽培に活かす…この難易度の高さは農業に携わる方には至極ご理解いただけると思います。


アンコントロール=制御が利かない資材を使うということは、それだけで作物の収量に影響を及ぼします。そして気をつけたいのが栄養が多ければ増収につながるというわけではなく、さらにその増収=増益というわけでもないということです。

徒に作物のサイズが大きくなれば、扱いの悪い安い規格になってしまいますし、キャベツで言うと長雨で肥効が出過ぎて病気を呼んだり、収穫適期が早まりスケジュールが崩れ裂球してしまったり。。

とりわけ露地農家は、天候という超絶制御不能な変数と戦いながら作物を栽培しています。その中で利益を最大化するためには、その他の制御不能な「因子」をなるべく取り除くことが重要になってきます。

これを考えたとき、堆肥の投入は果たして賢明な手段なのか、一考する必要があると考えられます。

さて、長くなってしまいましたので今回はこの辺りで一旦キリにします。堆肥施用に関して最も重要なことは次回に。


それでは今回はここまで。

ありがとうございました。

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