【技術】#3 「水やり」を探究する

農業

植物を育てるには水が必要というのは万国共通の認識です。

水やり、すなわち灌水(かんすい)の精度が作物の生育に大きく影響することは言うまでもありません。今回は、私が勉強した知識と現場での経験を踏まえ僭越ながら「水やりの極意」をお伝えさせて頂きたいと思います。

① 間を意識する 

6本の畝に灌水する時も、3本ずつではなく6本全域を往復することで間を作る

水やりという行為は、土壌における三相分布の割合を変化させるということです。固相・気相・液相のうち、孔隙と言える気相を水で見たし液相にするというもの。その上で大切なのが水やりのスピード・ペース配分。土壌をスポンジに例えて考えるとわかりやすいのですが、蛇口から勢い良く水を流すとスポンジに入らない水がそのまま流れていきます。

つまり、水が土壌内部に浸透していく速度と時間あたりの灌水量は等しくなく、短時間に沢山水やりをしても表面を流れていくだけになってしまう場合があります。この表面を水が流れていく現象を慣例的に「水が走る」と言ったりしますが、土壌内部への浸透速度に合わせ間を置いて水やりを行い、最終的にそれ以上水が染み込まない状態で以って水を「走らせる」事が重要です。特に作物の種を撒いた直後の灌水は注意が必要で、水分の内部浸透については②で詳細に説明しますが最初の水やりというものは「やりすぎ」くらいが良いと言っても過言ではありません。

ちなみにこれはプランター栽培や水田転換畑、セル成形育苗においては浸透しきれない水が土壌表面に溜まり一定時間経つにつれ吸収されていきますのであまり問題にならないかもしれません。寧ろ根腐れに注意が必要といえるでしょう。

② 作土と心土の水分を繋げる

こんな風に水玉になるのも分子間力が大きい所以

 作土(さくど)とは、耕して作物を植える耕地の表層の土のことで、作物の根が伸び広がる部分を言います。心土(しんど)とは、田畑の作土の下にある層のことで、耕した時にすき返されない部分の土を言います。この作土と心土の水分を繋げるという事がとても重要なのです。分子には近づくとたがいに引っ張り合う力(分子間力)が働くのですが、水はこの分子間力が大きな物質なのです。

 畑を耕して種を蒔いた直後の最初の水やりは、作土を十分に湿らせるだけでなく、作土の水分と心土部分の水分とが繋がるまで丹念に行います。①と重複する部分もありますが、心土まで繋げることで心土から水が上に上がり、作土の水分管理に余裕が生まれます。これは作物を本圃に定植した時も重要で、植えた後に作土に十分な水分を与える為にかなり多くの灌水が必要になります。ただ、耕起後の冗長な水やりは雑草の繁茂を助長してしまう原因にもなりますので、適度な作土水分を見極めて定植作業に取り組めるような体制が求められます。

しばしば先に畝を立てて(貯畝と言うそうです)定植に臨む農家さんを見かけますが、排水性が極端に悪い圃場であったり、人員的な都合上でなければ本来は定植前直前耕起をお勧めしたいところです。せっかく土壌に元からある水分をわざわざ飛ばすのは勿体無いですし、乾燥した作土全面に表層から水分を行き渡らせるのはかなり時間をかけて灌水する必要があるのです。灌水時間が短ければ雑草も生えにくいですし地域差や環境の違いもあるとは思いますが、作土となる部分の水分を上手くコントロールすることで灌水の手間を省く事ができるという意味では試行錯誤する価値はあると思います。

③ 「土殻」を使いこなす

玉ねぎの畝。白く乾いた土殻で灌水要らず

最後に土殻についてです。土殻(どかく)とは灌水を行った土壌表層が硬質化したものを言う完全な私の造語です。笑 耕起した作土に灌水を行うことで、水の浸透に伴って土砂の一部(=固相)が流され、土壌表面の孔隙を塞いでいきます。加えて灌水による水圧によって表面が押し固められることで、まるで表面に土の殻のような層が形成されます。これが土殻です。土殻形成後は作土に灌水による水分が入りにくく、また作土にある水分が失われにくく(=水分をより長く保持する事ができるように)なるのです。灌水を行えば行うほど、土殻の形成は進みますが、やはり耕起して種を播いたないしは定植を行った直後の灌水が最重要になってきます。つまり、土殻形成の前の状態時に如何に作土へ水分を入れ込むかで発芽率・活着率は大きく変わってくるのです。

さて、如何でしたでしょうか。

参考までに私のところでは、播種圃場では土壌消毒を行って土壌を整え初期灌水を徹底しますが、定植直後の灌水は原則行いません。代わりに殺菌剤の散布と作土にある水分をしまい込む「土殻」の形成目的でトラクターブーム灌水を行なっています。

土と水の関係は想像するより非常に複雑でシビア。

今回押さえて頂きたいのは

「播種も育苗も定植も、最初の水かけで殆ど出来が決まる」

と言うことでした。

それでは今回はここまで。

ありがとうございました。

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