以前の記事にあるように以前私が受けた誹謗中傷に対して、皆様のお力添えを得ながら情報開示請求に踏み切った件について顛末をお伝えさせて頂きます。また、今後私個人に留まらず誰もが同様の事象が発生した場合に迅速に対応することができるよう、今回で得た知見を列記しますので参考にしてください。
対応を依頼する法律事務所の選定
当該案件について情報開示請求の対応を弁護士に依頼しました。3件ほど法律事務所に相談し最も返信の早かったところにお願いすることに。電話の他ラインでもやり取りができるので記録を残しやすいと思い選びました。
情報開示請求の可否
まず、事象の概要として「突然知らないアカウントから自分のID、年齢を併記の上”ネットリンチ農家””悪質極まりない人殺し”等の全く身に覚えのない誹謗中傷を受けたため情報開示を行いたい」と伝えました。
これに対し弁護士からは「加害者側が公開ツイートであれば名誉毀損として対応可能であると思料される。いくつか確認する必要があるので証拠となるスクリーンショット等を送って欲しい」とのこと。
速やかにスクリーンショットを複数枚送信すると、
・内容的に違法性があることは間違いない
・相談者様のアカウントもフォロワー1万人以上と影響が大きいため、問題なく開示請求が通るであろう
と返事が来ました。
法律的に開示請求は通りそうです。
補足と弁護士費用
同時に、
・Twitterは他SNSに比べTwitter社の対応が遅く開示請求にかかる時間が長いが(特定までに半年〜1年程度かかる可能性)最終的に加害者を特定し賠償請求することが可能
・本件において、投稿者特定後に賠償請求を行い認められる純粋な慰謝料の金額は50万円前後であると思料される
として、今回のおよその弁護士費用と合わせて案内されました。
(以下全て税別表記)
①【Twitter社に対する開示命令及び提供命令の申立て】
着手金:15万円
報酬金:20万円
期間:2~3か月程度
②【AP(アクセスプロバイダ)に対する開示命令及び消去禁止命令の申立て】
着手金:15万円
報酬金:20万円
期間:2~3か月程度
③【慰謝料請求】
着手金:0円
報酬金:示談解決の場合は取得慰謝料額×23%,訴訟解決の場合は和解(判決)額×30%
※上記①②③とは別に郵便代,裁判所に納める印紙等で1万円程度の実費が生じます。
また、注意事項として
・ネット上の投稿に関しては技術的な問題で特定できないケースが多数存在するが、最近増えているのがネット型マンション(全居室に最初からインターネット回線が敷設されており入居者はその回線を別途費用無しで利用できるという物件)の居住者が発信者である場合。あくまで物件によりけりだが弊所の経験では基本的にネット型マンション=マンション全室で同じIPアドレスを共有しており、どの部屋が真の発信者か特定できない仕様になっているため、このケースも個人特定には至らずという結果に終わる可能性がある。
と案内されました。特定できない場合もあるようです。
情報開示を求めるアカウントの動きについて
開示請求の動きとほぼ同時期に、当該アカウントが削除されていることがわかりました。これについて弁護士に聞いてみると、
・掲示板の投稿については投稿から1か月半以内に動かないとログ保存期間の問題で間に合わなくなるという制限があるが、SNSのようなログイン型サービスについては最終ログインから1か月半程度という期限のため、相手方がいつもTwitterを使い続けてくれていれば常に期限は更新されていくのでアカウントを消したりログインせず1か月半が経過したりしない限りは大丈夫。
・Twitterの仕様で削除から1か月で完全に追跡できなくなってしまうが、現在の手続きにかかる時間を考えるとTwitter社の対応が遅く上手くいくかはそれ次第。
この時点では正直やるにしても期間が長すぎるし費用もバカにならず、手続きが間に合うかもわからない中でこちらのメリットもあまりなさそうなのでまあ泣き寝入りでも良いかな、と思っていました。そんな折、複数のフォロワーさんから「正当な意見が誹謗中傷によって封殺されるべきではない」「前例を作りこういった輩にお灸を据えて欲しい」「皆でカンパして開示請求しよう」とコメントを頂き、私自身開示請求並びに賠償請求の経験は当然ありませんでしたから、これも経験かと思い開示請求を行うことに決めました。
委任契約

電子契約と郵送で送られてきた委任状に署名・押印をして返送します。着手金を振込み、これで開示請求手続きが開始されました。とりあえずこちらでできることはここまでです。進捗を待ちます。
証拠スクショの詳細確認
2ヶ月程経過した9月7日に、弁護士から連絡が来ました。内容は
・現在裁判所において非訟手続き申立てに関する手続きを進めている最中ですが、その中で裁判所から「証拠として提出する各投稿について具体的な日時(時間まで分からずとも月と日付だけでも)を明記せよ」との指示を受けております。つきましては、証拠として提出している8枚の画像についてそれぞれ何月何日の投稿であるとご記憶されていればお教えください。なお、記憶にない場合はスマホのスクショデータを確認いただき、保存日時から投稿日の推察をしていただき特定をお願いいたします。
とのことでした。
該当する画像を探し出し、一部は詳細な時間がわからなかったので保存日時から推定して返信しました。
X社による非訟手続き不対応の通達
年も明けてしばらく経つ2024年4月10日、弁護士から連絡が来ました。内容は
・Xの開示につき弊所にて進めていたところ、東京地裁より正式な通達として「Xは完全に新法の非訟手続きに応じない姿勢を示しているため、今後はXについては非訟手続きで申し立てを受けても対応できない。ついては今後同社に対する申し立ては旧来通りの発信者情報開示請求仮処分をXに対して行い、その後も旧来手法で続けて対応いただくしかない。」という連絡が成されました。これにより、当初ご案内しておりました手続きとは異なる旧来型の手続き(詳細な手続き方法や流れは以下参照ください)でのご案内になるという事と、それに伴い改めて委任状の手配が必要(従前頂戴しているものは非訟手続きのためのもので委任状の文言が変わるため)ということになりましたので、近日中にあらためて委任状ご郵送差し上げます。こちらに署名・押印のうえご返送いただきますようお願いいたします。弁護士費用は当初ご案内の非訟手続きと同じ金額(総額70万円税別)でのご案内となりますので,この点はご安心ください。但し,下記のとおり70万円とは別に担保金という裁判所に一時的に納める(後日返金されます)金銭が生じる点もご了承ください。
また,開示請求に係る時間が全体として大幅に長くなる(1年近くかかる)点についても裁判所の都合があり短縮できない旨をご理解願います。
という感じで、振り出しに戻るような徒労を禁じ得ませんでした。
弁護士費用については総額は変わりませんが内容としては次のようになりました。
①【発信者情報開示仮処分】Xからアクセスプロバイダの情報やIPアドレス等の情報を得るための裁判所手続き
着手金:15万円
期間:1~2か月
※ここで担保金20万程度が生じる可能性が高いです。
②【消去禁止仮処分】アクセスプロバイダに対してアクセスログの保全を求める裁判所手続き
着手金:15万円
期間:1~2か月
※ここでも①と同様に担保金20万程度が生じる可能性があります。
③【発信者情報開示請求訴訟】アクセスプロバイダに対して開示請求訴訟を提起
着手金:20万円
報酬金:20万円
期間:6か月~9か月程度
発信者情報開示仮処分→消去禁止仮処分へ
2ヶ月程して①の発信者情報開示仮処分から消去禁止仮処分の手続きへ進んだ旨の通達がありました。非訟手続きの不対応通知が来る前からやり直しにはなったものの、内容としては同様のものだったためか、ここはあまり時間がかからなかったようです。②の着手金165,000円を納め、開示請求の進展を引き続き待つこととなりました。
決着と所感
そこから半年経った令和7年年明けごろ、新年の挨拶とともに残念な通達が来ました。
・非訟手続きの不対応から旧来通りの発信者情報開示請求仮処分をXに対して行い、その後も旧来手法で続けて対応していましたが、先のログ保存期間の問題もあり今回加害者である「幸子」というアカウントの開示には至りませんでした。
という旨の内容で、アクセスプロパイダに対して開示請求訴訟を提起することは叶いませんでした。
大変残念には思ったのですが、長い期間と手続きのやり直しを経て考えるのも嫌になっていたのである意味キリがついて良かったです。ただ、厭世観から顛末をまとめるのが遅くなってしまったことは、お力添えをいただいた方々に対して申し訳なく思っております。すみませんでした。
1月末に精算書が送られてきたので部分的に載せておきます。

発信者情報開示仮処分と消去禁止仮処分の着手金の他に諸費用がかかり、合計331,376円の費用がかかりました。今回、訴訟費用として108名の方から合計298,000円ものカンパを頂きまして多大なる感謝を申し上げますと共に、開示成功に至らなかったことを重ねてお詫び申し上げます。
少しでも経験を活かすため、今回で得られた知見を反省と共にまとめようと思います。
開示請求が可能かの条件について
誹謗中傷等をSNSで受けて開示請求に踏み切ろうとした場合、次のことを確認すると良いでしょう。
・誹謗中傷の加害アカウントはいわゆる「鍵」付きの非公開アカウントか否か
→非公開アカウントの場合開示請求できない場合が多いです。
・誹謗中傷の被害アカウントの状況
→被害を受けたアカウントにおいてもフォロワー数が少なかったり非公開アカウントである場合は開示請求できない場合があります。フォロワー数も数千人はいないと影響が大きいと判断されにくいようです。
・スクリーンショットの重要性
→Xにおける投稿内容は削除されても1ヶ月半あまりログが残りますが、スクリーンショットをタイムスタンプ(日時が表記されている部分)を入れて撮っておき、できれば魚拓もとっておくと確実です。私も証拠ほぜんはしっかりしたつもりでもタイムスタンプが写っていなかったために裁判所から詳細を報告するように言われました。これは習慣にしておかないと難しいなと思いましたが、フォロワー数の多い方は予め備えとしていつでもスクショを撮れるように練習しておいた方が良いかもしれません。
・アカウントが削除されていた時は
→今回誹謗中傷に対する動きを見てかアカウントが早い段階で削除されていました。こうなると瞬発力が必要で、即座に開示請求に踏み切らないと間に合わないのだと痛感しました。私の場合、このタイミングがちょうどTwitter社がX社に変わるのと同時期であり、この辺りでツイート(ポスト)ができない、更新ができないといったバグの発生もあり、初動が遅れてしまったことが開示に至らなかった一因であると思っています。
その他の知見
開示請求中に私の友人が「Q」という陰謀論のグループのリーダー格に誹謗中傷を受けて開示請求に踏み切るかどうかという出来事がありました。この時私も誹謗中傷を受けており、友人と私で同時に開示請求できないか弁護士に相談してみました。しかし、開示請求は被害者が異なる=事件が別という判断のため、共同での申し立てはできず、裁判所手続きも全て別事件での扱いとなる、との回答でした。
不特定多数に誹謗中傷をばら撒くアカウントが存在したとしても、被害者が共同で開示請求することは不可能であり、個別の対応でそれぞれに費用がかかってくるというのはもう少し柔軟に対応できないかと思いました。現状ではそうするしかないようですので致し方ありません。こちらの件は結局友人が開示に踏み切らなかったので何もせず。
まとめ
私も初めて誹謗中傷をまともにくらい、どうすれば良いかをSNS上で発信していました。今思えばそれが致し方なかったにしろ、誹謗中傷をした加害者側にこちらの動きが筒抜けになっている状態であり、それがアカウント削除による逃亡を許したとも取れます。理想的な動きとしては、誹謗中傷をされた段階で証拠を固め、水面下で開示請求手続きを速やかに進めるというのが良いですが、慣れてないとなかなかそうはいかないだろうというのが経験としてわかりました。誹謗中傷も内容によって「名誉毀損罪」か「侮辱罪」になるか判断も変わってきます。
また、明確に誹謗中傷が被害者に向けられて発せられたものかどうかも重要で、@をつけたメンションや、「〇〇(被害者)は馬鹿だ」という言い回しなら完全に誹謗中傷になりますが、それらがない場合訴訟は難しくなるようです。誹謗中傷の加害側としては捨てアカウントを作って好き放題誹謗中傷しまくって騒ぎが大きくなってきた頃合いでアカウント削除で逃亡、なんてやり方もできてしまうでしょう。X社が開示手続きに及び腰なのがそもそも良くないのですが…ゆえに悪意を持って本記事を読まれるのもあまり良くありません。書き方には特に注意を払いました。
ともあれ、もう少し誹謗中傷に対する措置が身軽に行えないと相当の人が泣き寝入りすることになるな、と個人的には思うばかりです。
末尾にはなりますが、今回お力添え頂いた多くの方々に厚く御礼申し上げると共に、開示に至らなかったことについて大変遺憾であり、申し訳なく思っております。しかしこれも貴重な経験となり、以後の活動に活していくことが重要だと考え、誹謗中傷に晒される人たちに迅速な助言を行えたらと考えております。この度は本当にありがとうございました。
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