【検証】#17 稲作農家が『時給10円』ってほんと?<検証編>

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2024年3月25日の国会の参議院予算委員会にて、日本共産党の紙智子氏が2021年と2022年の「稲作経営の時間当たりの農業所得」が『時給10円』だという衝撃的なパネルを挙げて質問をしていました。


なかなか驚きの数字ですよね。

本事案はX(旧Twitter)でも話題となり稲作農家さんに向けた憐憫の情や政府に対する憤りのポストが多く発信されました。

私は畑作農家なので稲作には明るくありませんが、あまりにも「時給10円」の衝撃が強かったので自分でもいまいちど調べて見ました。平均値としての数字のようですが、その実態はどうなっているのでしょうか。

まずはしんぶん赤旗をチェック

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik23/2024-03-26/2024032603_01_0.html

国会質問のあった翌日の記事に該当するものがありました。使われたパネルとは少し表記の仕方に違いはあるものの、共通しているのは農林水産省の「農業構造動態調査」から作成されているということ。というわけで農林水産省のHPから辿っていきましょう。

農業構造動態調査とは?

ちなみに農業構造動態調査は、5年ごとに実施している農林業センサスの間の年次の動向を把握するための調査です。

見つけました。政府統計の「e-Stat」で閲覧が可能です。
R4年の農業構造動態調査では、

(1) 個人経営体調査 
ア 経営体の概要 
イ 土地に関する事項 
ウ 世帯員の構成及び就業状況 
エ 農業労働力に関する事項 
オ 農産物の販売に関する事項 
カ 農作業の受託に関する事項 
キ 農業経営の特徴に関する事項 

(2) 団体経営体調査 
ア 経営体の概要 
イ 土地に関する事項 
ウ 農業労働力に関する事項 
エ 農産物の販売に関する事項 
オ 農作業の受託に関する事項 
カ 農業経営の特徴に関する事項 

ちなみに農林業センサスは全数調査であるのに対して、農業構造動態調査は標本調査によ り把握した推定値であるため、一定の標本誤差を含んだ数値であることに留意する必要があります。

それでは稲作農家の
①経営耕地面積
②農業所得
③時間当たりの農業所得
にあたる情報を探っていきましょう。

ない

…….ないんですよね。いえ、厳密には①はないとは言えませんが、②と③は情報が見つかりませんでした。

① 経営耕地面積について

経営耕地面積を調べる上では、まず個人と法人を含む「農業経営体(全体)」なのか、個人のみの農業経営体のカテゴリーで見るかがポイントです。パネルでは「1戸当たり」と記載があるので後者とみて間違いないでしょう。

どこをどう調べても①経営耕地面積が「279a」という情報が見当たりません。全国の農業経営体(個人経営体)の経営耕地の状況のデータでは「170a」でした。

農業経営体全体では120a、個人経営体の所有農地のデータでも110aという結果。
279aは一体どこから来ているのか、皆目検討もつきません。

「田」が地目を示すものであり「稲作」とは限らないことが考えられますが、より詳細なデータは農業構造動態調査では把握されていないのでこれ以外ないのです

② 農業所得について

農業所得、ありませんでした。所得に関わる部分を実際の調査表で確認してみます。

農業所得に関しては「自営農業による所得が多いか否か」という項目しかなく、実際に額面を記入する箇所は見当たりませんでした。それなのにどうやって具体的な農業所得の数値を出せたのでしょうか、甚だ疑問です。

他方、農産物の販売金額(売上高)の項目がありましたのでこちらを「農業所得」とできるかと思いましたが、これらは稲作以外の全ての農産物を含む販売金額なので参考になりません。これに対する追加的なデータも「農産物販売金額が上位3位までの該当順位」しかなく、作物別のデータはありませんでした。

それより何より、パネルでは年間所得10,000円で、時給換算で10円とあったわけですから、1戸当たりの労働時間は10,000円 ÷ 10円 = 1,000時間/年という計算になります。水田作経営1戸当たりの平均農業従事者数は2022年で3.77人なので、農業従事者1人あたり約265時間/年。1日約45分働く計算になります。正しいのかこれ…?


③ 時間あたりの農業所得について

いわゆる「時給」に当たるデータですが、農業所得が細かく参照できない時点で時給が出せるはずもありません。一応、「農業所得 ÷ 年間労働時間」で算出できるので、年間労働時間のデータを探してみます。

自営農業に従事した日数を記載する欄がありました。従事した日数は一日を8時間として計算されているので労働時間はある程度把握できそう…かと思いきや、選択肢では1〜29日など、30日間のレンジがあるではありませんか。

要するに同じ選択肢でも240時間の差が発生しうるということになります。これでは正確な労働時間を把握することなど到底できないでしょう。

どういうことだってばよ

まとめるとあのパネルは

①経営耕地面積 → 実際のデータと齟齬あり
②農業所得 → 該当データ無し
③時間当たりの農業所得 → 該当データ無し

という散々な結果となってしまいました。
しかしですよ、国会で質問する場でここまで杜撰な真似をするとは考えにくいですし、何かの間違いであって欲しいと実際思うわけです。

考えられるのは

① 出典を間違えて記載してしまった
② 適当に検索して調べたものに虚偽の出典を記載した
③ 当記事の筆者がデータを見落としていた

のどれかになりそうです。
何度も何度も見たので③だとしたら申し訳ないですが、②でないことを祈るばかりです。

現在当該パネルを使用して質問をした紙智子氏のHPから出典の内容について問い合わせているところです。明確な回答が得られることを心待ちにしながら、自分でも今一度稲作農家さんの時給について計算してみようと思います。

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