さて、前回記事で3月25日の国会質問でのパネルの真偽についてまとめました。
今回は自分で該当するデータを拾って精査してみたいと思います。
その前に
共産党の紙智子さんが挙げたパネルの引用元が判明しました。農業構造動態調査ではありませんでした。
私が今回精査していたデータのすぐ近くだっただけに悔やまれますが、教えて頂いた方に感謝申しあげます。
パネルが引用していたデータは「農業経営統計調査」の令和4年営農類型経営統計。この統計にある水田作経営のデータから作成されているようです。
確かにパネルにある①経営耕地面積 ②農業所得 が記載されており、これらの情報から③時間当たりの農業所得=時給を計算することができます。
つまり、「農業構造動態調査」が引用である、というのは間違いということになります。国会で挙げる資料ですから、引用元は正しく記載して欲しいものですね。
それと、データの選択という意味でも、パネルでは「1戸当たり」と記載があったにも関わらず選択肢た統計は法人や集落営農組織を含む全農業経営体の統計でした。この場合は「個人経営体」に絞った統計から算出する方が相応しいと言えるかと思います。私はずっとそちらのデータを参考にしていたのでなかなか見つけられませんでした。。
実際のデータを俯瞰して
当該データから調査した経営体の総数と、水田の作付け面積を経営面積別にまとめてみました。
合わせてそれぞれの従業者1人あたりの年間労働時間及び時給を計算してみました。
いかがでしょうか?
パネルで示されたのは稲作経営1戸当たりの平均値として
① 279aの経営面積 ② 10,000円の農業所得 ③ 10円の時給
これを「いくら平均とはいえ低すぎる」と批判したというわけですが、いかがでしょうか。
実際に見ていくと、本統計で集計した経営体数の実に54%、経営面積5ha未満の農家が時給-132円、つまり働いたら働いただけ損をするということがわかります。
これを経営と言うか微妙なところではありますが、そういった赤字稲作者が半数を超える一方、その人たちが作付けする田んぼの広さは、集計した経営体が作付けする総面積のたった1.5%しかないのです。
実際には2割弱が5.0〜20haの経営体、そして実に8割の面積を全体の23%の経営体が担うと言う構図です。この著しい偏りを見せる経営の概況において、平均値は最早何を意味すると言うのでしょうか。
それでも5.0ha以上経営される農家さんでも時給は104円や51円など、なかなか衝撃的な数値となっています。しかしこれは稲作部門での可処分所得を時給計算したものなので、よくあるアルバイトの時給との比較は意味が少し違ってきます。
また、稲作農家は稲作だけでなく他の品目も栽培していることも少なくなく、収入を得る手段が一つではないことが多いにあるようです。
時給もいいけど、労働時間をみよう
10円という衝撃的な時給の低さで反応してしまいそうになりますが、ではその時給で実際どれほどの時間を働いているか、年間の労働時間を考える必要はあるでしょう。
統計によれば、5.0ha未満の経営体は従業者1人あたり212時間/年と言う数値。1日あたり1時間以下、8時間を労働日数1日とすると実に26.5日の労働日数となります。かなり少ない時間ですよね。
20ha以上を作付けする経営体でも年間520時間。たった65日しか働かないと言う計算になります。これは、稲作単体の経営とは限らず、本項目以外に何らかの方法で収入を得ていると思います。
それはもちろん高齢者の方の年金であったり、各種補助金や他品目栽培といった話につながってくるのではないでしょうか。
ちなみに日本における全就業者平均年間実労働時間は1,607時間です。
まとめ
ヒストグラムを見ても標本調査とはいえ、557の経営体が全体の1.5%の面積でひしめきあって赤字経営を行う一方で、それ以外の経営体が80%もの農地を使って効率的に生産していることが伺えます。
確かに平均で見れば時給は10円かもしれません。しかしその時給で年間どれくらい働いて、他にどんな収入があるか、また稲作経営に係る各種補助金等の支援がどれくらいあるかまで考えなければならないでしょう。
パネルだと一般の方からすれば、まるで稲作農家が毎日時給10円であくせく働いているようなイメージが付きかねないと思います。
また、補助金や年金によって生計を維持しているような経営体よりは、大面積でしっかり利益を出している農家の支援を強化していく方が、食料安全保障や食料自給率の面からも妥当ではないでしょうか?
しかしこれが「票田」となると、単純に経営体数の多いところにアプローチしていく方が得票数としての価値があるのでしょうか。だとすれば「今だけ、金だけ、自分だけ」の誹りを免れないと思います。
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