前回記事に引き続き、次は生育面からアプローチしていこうと思います。
生育面での比較。病気や虫食いもなくたくさん作物を作れたら嬉しいですよね。セル成型苗と地床苗ではどのような違いがあるのでしょうか。
種子の発芽率と育苗精度
地床苗に使う裸種子は発芽率が比較的高いので、等間隔に撒いた種の発芽不良による、その周辺種子の肥料や日照からなる栄養偏重が少なくて済みます。これにより苗のサイズを均等に近づけることができますが、降雨による肥料の流亡や、播種床の地質差、灌水ムラなどでやはり生育に差が発生します。
セル成型苗は発芽率こそ地床苗に劣るものの、適切な施肥と灌水さえすれば苗自身の個体差を除く生育差を生じさせにくいという利点があります。ただ、育苗期間の短いセル成型苗は植物体の小ささからその個体差を見分けることが困難なため、定植後に思わぬ生育差に悩まされる恐れがあるため注意が必要です。
撒いた種を予定通り確実に使いたいセル成型苗と、それぞれの生育差を許容し選びとる地床苗では、そもそも育苗精度への期待値が違うのです。ざっくり取り組める地床苗で均一な育苗ができれば精神的衛生的に1番良いのかもしれません。
均一な生育
地床苗は、常にその時の最適なサイズを選び取って定植作業に持っていくため植えた後の生育に大きな差が出にくいメリットがあります。セル成型苗も同じ様なサイズの苗を植えて行くので均一な生育が期待できると思いきやです。
考えて見てください。人間は新生児、赤ちゃんの頃には他人の赤ちゃんと取り違えてしまうことがあるくらい見分けが付かなく、同じ様に見えてしまいます。しかし、ある程度成長してくるとそれぞれの身体的特徴が段々と出てきて見分けられる様になります。
植物もそれと同じで、小さい頃同じ様に見えた苗でも、成長していく内に差がつくことはままあることなのです。それにはその個体自身が持つポテンシャルと、外部環境の影響とがあるのですが、後者はとりあえず置いておくとして、まず持って個体差という後からではどうにもならない事象を取り除くことができるのが、地床苗の利点と言えるでしょう。
しかも、遅れて成長した苗たちも、同じペースで同様に育った苗を一律に拾い上げ定植して行くことで、結果的に均一な生育が期待できるという算段です。地床苗は一見ロスが多い様に見えますが、2番苗、3番苗を残し常に同じサイズの苗を植えることでムラなく均一な生育を期待できる点において非常に合理的なのです。
根張り
地床苗は一般的に根切りという作業を育苗過程で行います。畝ごと苗の根を切って吸水力を断つことで、過酷な環境下に置かれた苗が生きようと根をさらに張ることで強靭な植物体に仕上げる効果があり、大変意味のある作業です。
根切り後の地床苗を拾い上げる時には、いつもその凄まじい根量に驚かされます。根張りの良い苗は活着力に優れ、干ばつに強く、初期生育が良好などいいことづくめです。活着力が強ければ生えてくる雑草の勢いに負けないですし、干ばつに強ければ、雑草抑制の「殺し水」を有効活用でき、そもそも灌水量が少なくて済みますので(というかほぼ灌水は必要ありません)定植後の灌水による病害の発生を防ぐことができます。
セル成型苗はそもそも根切り作業がなく、限られた培土の中で根が詰まりがちになってしまうため苗の老化を招き、また活着不良による初期生育の遅延の恐れがあるので注意が必要です。多少は良いですが、セル成型苗は適期を外すと様々な弊害が出かねないので、兎にも角にもタイミングにシビアでなければなりません。そういった肉体的・精神的な余裕の有無はずっと働いて行く上で重要なポイントではないでしょうか。
萎れ
地床苗は植物体が大きい状態で定植されるため、いかに根量が多くても定植直後は萎れてしまいます。ですが、その萎れこそが苗のよりよい生育を促してくれるのです。萎れは植物が生きるための防御反応の一つです。根切りと同じで過酷な環境下に置かれた苗は、それでも生きようと根を張り、力強い植物体を作り上げます。
これにより病害にも強く、灌水の不要な苗が出来上がるのです。セル成型苗は、大袈裟に言うと一度も萎れることなく収穫を迎えることになります。植物体が小さく定植後にもマメな灌水が必要なので、萎れるタイミングがないのです。そしてその時に適切すぎる灌水量によって甘やかされた苗は、もっと根を張ろう、もっと強い体になろうとはしません。
必要がないと判断してしまうのです。それが定植時期と育苗期間とが合わさり余計な防除・灌水をしなくてはならなくなってしまうと言う流れです。ある程度のストレスはより良い生育に必要。人間と同じ、可愛い子には旅をさせろと言うことなのかもしれません。
収穫時の倒伏
これはキャベツの収穫時のことです。首を振るなどと慣例的に言ったりしますが、玉が畝に対して垂直でなく倒れてしまっている状態になっていることがあります。これがあると結構収穫時に手間がかかります。
作物の倒伏は、定植時浅く植えられた苗が傾くことで起こりやすくなります。セル成型苗はほとんど自動で定植を行い、深さも十分であるはずなのに、傾くことがあります。これは、定植後、立てた畝が沈下することで苗が培土ごとその場においていかれるために起こってしまう現象です。
畝は耕起直後はフワフワしている=気相の割合が多い=やがて潰れるのです。雨や時間経過によって沈下する畝に対して密度の違う培土が苗ごとおいていかれてしまい、極端な話畝の上に苗を培土ごとただ置いただけの様な状態になりかねないのです。
これでは倒伏するのも無理はありません。地床苗は、乗用自走移植機によってかなりの深植え(成長点が少し地上に出るくらい)をします。これはやがて畝が沈下することを見越し、植物体の大きさを活かすことで容易に深植えすることができているのです。セル成型苗は苗自体が小さいため、深植えにも限界があります。
薬害
セル成型苗は、その植物体の小ささから地表面に散布される農薬に対し芽と根の二つの成長点が非常に近く、土壌処理剤などの農薬で薬害が発生する恐れがあります。地床苗はそもそも定植時点での生育ステージがー回りも二回りも大きいため、成長点が地表面から離れており薬害を起こしにくいのです。
それでは今回はここまで。
ありがとうございました。
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