【知識】#3 有機農業を推進したスリランカの破綻の要約

農業

※2022年6月9日に発行の国連人道問題調整事務所(OCHA)による報告書他を参照

スリランカは北海道の約0.8倍の国土面積、人口約2200万人の共和制国家です。現在この国は、独立以来最悪の経済危機に直面しています。政府の財政問題だけでなく、食料、燃料、肥料、医薬品が入手困難となる事態が同時発生し、国全体の生活が崩壊しています。その結果、約570万人の国民が緊急の人道支援を必要としています。

特に、多くの家庭が基本的な食料品を買うことができないという多次元的な食料安全保障の危機に瀕していることが懸念されます。2年前より食料価格は平均で73%上昇し、最大7割の世帯で食事を抜くなどして食料消費を節減しなければならなくなっています。

子供たちの環境にも多大な影響を及ぼしています。給食の削減や、新型コロナウイルスの蔓延による学校閉鎖で十分な学習環境に乏しい状況となっています。持続的な財政赤字と2019年の大幅な減税策を始め、新型コロナウイルスの蔓延によってスリランカの財政と外貨準備高は深刻な状況に陥り、2022年始めの食料・エネルギー価格ショックと相まって債務危機を招きました。

同年3月には発電に必要な輸入燃料が手に入らず、政府は連日の計画停電を余儀なくされました。約11%の世帯収入が途絶え、62%が減少したと回答しており、栄養価の高い食品を購入する余裕が著しく低下しています。

2019年、今後10年間でスリランカの農業を全て有機農業に移行するという公約を掲げたゴダバヤ・ラジャパクサ大統領が当選しました。その後有機農業への移行に否定的な国内の農業専門家や科学者らを有機農業への移行に関する農業セクションから遠ざけ、その代わりに有機農業推進派の市民団体のメンバーを任命しました。

ラジャパクサ大統領が就任してから数ヶ月後、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生し、スリランカの外貨獲得源の観光業が大きな打撃を受けました。
2021年初頭にはスリランカ政府の予算と外貨準備は深刻な危機に陥りました。

そこで大統領は国内の農業全てを有機農業へ移行させる政策を一気に推し進め、2021年4月に「化学肥料や農薬を禁止する」と発表しました。これは選挙公約を実現することに加え、肥料購入費や補助金のカットによる支出削減というメリットもありました。

2021年4月、適切な準備と生産者との協議を経ることなく、十分な移行期間もなく有機肥料もほとんど入手できない状況下にも関わらず化学肥料の輸入が完全に禁止されました。

この禁止措置は2021年11月に解除されましたが、この決定により直近の農繁時期における生産は甚大なダメージを受け、当時の主張では「有機農業は従来の農業に匹敵する収穫量を生み出せる」としていたものの、実際には農作物の生産量が約40~50%減少したと推測されています。生産量の減少は次の農繁時期まで続くと考えられています。

水稲の場合最大で2倍もの生産コスト増により、生産のために土地を耕す農家は極少数となっており、例年耕作される土地の24%(524,778haのうち128,652ha)しか、次作に向けて耕作されていません。現在の収穫量は国内の需要を賄うには十分ではなく、生活に必要な輸入品が不足し価格が暴騰していることが状況を悪化させています。

スリランカは人口の9%に当たる約200万人が農業に従事しており、国民の約40%が農業関連の職業に従事しています。消費者のスーパーマーケットへのアクセスが80-90%急激に減少し、1日の総売上が500kgから50kgに減少したとの報告もあります。

現状の試算では、水稲は50%、トウモロコシは65~70%の生産損失となっており、金額ベースで5億5000万ドル以上になります。直近の農繁時期における全国の米の生産量は113万トンにまで落ち込むとされています。一人当たりの年間消費量が107kgであるため、今後3~4ヶ月を超えると米の入手が著しく制約されることが予想されます。また、動物用飼料が不足しているため、乳製品、卵、鶏肉のコストが高騰しています。

主要な輸出物である茶やゴム、ココナッツなどの収穫量も大幅に減少してしまったため、2021年11月にはこれらの主要輸出物について化学肥料の使用を部分的に認め、2022年2月には主要輸出物について有機農業への移行を停止しました。

スリランカ政府は農家に2億ドル(約270億円)の直接補償を行い、損失を被った米農家にはさらに1億4900億ドル(約200億円)の補助金を出しましたが、農家からは補償が不十分だとする批判の声が上がっています。推定によると、茶の生産量減少だけでも経済的損失は4億2500万ドル(約580億円)に達するとされています。

農業関係者は、代替となる生計や収入の機会がないため、食料不安に対する脆弱性が増す傾向にあります。

妊娠中や授乳中の女性は特に危険にさらされており、多くの人が優先順位の高いものを選択せざるを得ず、必要な栄養価の高い食品を購入することができません。また、現在の危機は学校に在籍する子どもの25%を対象とする政府主体の給食支援事業が滞ることによって就学に深刻な影響があるとされています。

当初化学肥料、農薬を禁止することで見込まれていた外貨支出や補助金の削減も、収穫量が減った分の食料輸入や損失を被った農家に対する補償のコストが上回ったという指摘も出ています。

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