最近話題になっている「食料供給困難事態対策法案(仮称)」。食料危機時に政府が増産計画の届出を指示、従わない場合は20万円以下の罰金を科すといった内容の報道がYahoo!ニュースで確認できます。
この報道に対して農家に対して罰金とは何事だ!とか罰を与えて人が動くわけないだろう!という現場生産者や関係識者の方もいれば、これは自民党による農家潰しだ!と声高に叫ぶ一般の方も散見されます。この法律の中身、実際はどのようになっているのでしょうか?
農水省に聞いてみた
本法案の検討に先立ち、「不測時における食料安全保障に関する検討会」で有識者の方々が議論し、その基本的な考え方について取りまとめたようです。
不測時における供給確保のための対策(出荷・販売の調整や、輸入による対応、生産の拡大や転換等の要請・指示等)については
① 事業者(生産者)の理解と協力の下で措置を行うことを基本に、国が生産を拡大すべき量等を提示した上で、事業者の自主的な取組を促す「要請」を行うこと ② 要請のみでは必要な量が確保できない場合に限り、「計画作成の指示」等を行うこと ③ 事業者の経営リスクを下げ、必要な生産を後押しする支援も検討すること
とされており、これは、農業者の皆様に関わる「生産の拡大」や「生産の転換」についても同様。
なお、「生産の拡大」や「生産の転換」の要請等の対象者については
①「生産の拡大」については、平時に対象品目を生産している者を基本としつつ、過去に当該作物を生産していたなどその生産能力があると認められる者に対しては要請等を行うことも可能とすることが妥当と考えられること ②「生産の転換」については、(より事態が深刻化し、国民が必要とする熱量を確保することが重要で、熱量を重視した品目への生産の転換を図る状況であることを踏まえ、)対象品目を現に生産している者に加えて、より広範な生産者を確保する観点から、 現に生産していないが生産能力を持つ者も対象とすることが妥当と考えられること
とされており、まずは、現に対象品目を生産している方への要請等を行うことを想定しています。
より事態が深刻化した場合においては現に生産されていない方への要請等も想定されますが、その際も
資金・土地・生産資材・ 施設・機械・労働力・技術等の生産条件が整うことが必要であることや、経済的損失が発生するリスクなどを十分に考慮することが必要
とされており、設備・機械等の事情から生産転換の実施が困難なケースにおいては、その方を要請等の対象としないことを想定しています。
注目の罰則規定
その上で罰則については、
① 要請については事業者の自主的な取組を求めるものであるため罰則は設けないこと
② 一方で、計画作成の指示に対して届出がなければ、確保可能な供給量を把握できず、計画変更指示の必要性も判断できないことから、計画作成の指示違反については罰則(罰金)を設けることが妥当と考えられること
③ 計画に沿った事業の実施等への対応についても担保措置は必要であるが、抑制的であるべきであることから、生産資材や労働力の確保ができない場合などやむを得ない理由がある場合は除き、罰則によるのではなく公表措置をとることが妥当と考えられること
とされていることを踏まえつつ、他法令の例も参考にして検討を進めているところ、とのことでした。
また当然に「増産指示に対しその対応が難しいと届け出た場合」は、届出を出していただいていることから、罰則の対象とはならないようです。
インセンティブ(支援措置)の内容は?!
「インセンティブ(支援措置)の具体例はあるか。また、金銭的な補助ではなく、上記の局面状況を鑑み人的資源を生産現場に移すような考えはあるのか」と聞いてみたところ、
インセンティブ(支援措置)の詳細については、今後検討
また、事態の推移によっては、労働力の確保に向けた措置を実施する必要がある局面も想定されると認識しております。
とのことでした。この辺りは具体的ではないようですね。
まとめ
報道では「増産計画の届出を指示できるとし、従わない場合は罰金20万円を科す。」とだけ。しかし実際には、生産資材や労働力の確保ができない場合等やむを得ない理由があり、増産指示への対応が難しい旨の届出をした場合には罰則の対象とはならないとのこと。
なんとまあ、随分杜撰な報道内容だったことがわかります。
報道の自由とは何か、今一度考えさせられますね。
行き掛けの駄賃で…
ついでに聞いてみました。
Q:食料の確保が難しくなる局面では、食料そのものだけでなく増産に係る各種資材も十分に確保できない上、燃料の輸入が滞れば農業機械並びに食料の運搬が停滞し、特に大都市への供給不足が懸念されるが対策はあるか
A:御指摘のような事態も想定し、生産資材等についても本法案の対象とし、国民生活・国民経済への影響の程度に応じ、早期からその供給確保の措置を実施することを検討しております。
なお、燃油については、石油の備蓄の確保等に関する法律(石油備蓄法)や石油需給適正化法といった、不測時に供給を確保するための既存の法制度があるため、まずはこれらの法律により供給確保を図ることとしております。
物流の確保については、国土交通省とも連携し、食料や生産資材の運送円滑化、保管施設の確保等に関する措置を講じることを検討しております。
このように、既存の法律を活用し、関係省庁とも連携することで、不測時における供給確保対策を講じることとしております。
一応の想定はしているようですね。
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