有機農産物が語られるときに、自然な栽培方法が農産物をより栄養豊富かつ健康的なものにしているという考え方がしばしば見られます。
だからこそ、そう言ったものをこどもたちに食べさせたいという願いが、今日の「給食のオーガニック化」という現象に現れているのだと思います。
しかし有機・オーガニックについて正しい知識が普及しているかと言えば、残念ながらそうではないようです。消費者の方だけでなく、生産者の中にも認識が曖昧な方が少なくありません。
変化を受け入れるタイミングでその内実を正確に捉えることは失敗や後悔に対する何よりの予防となります。
特に今回は食べ物に関わる内容。丁寧な理解が必要です。
ではまず、農業における表題語句の定義を確認しておきましょう。
有機・オーガニックとは
我が国では、平成18年度に策定された「有機農業推進法」において、有機農業を
化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業をいう。
と定義されています。つまり、
①化学的に合成された肥料及び農薬を使用しない
②遺伝子組換え技術を利用しない
③農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減する
というのが有機農業となります。
ちなみに有機JASは認証制度となっており、有機食品のJASに適合した生産が行われていることを登録認証機関が検査し、その結果、認証された事業者のみが有機JASマークを貼ることができます。
この「有機JASマーク」がない農産物、畜産物及び加工食品に「有機」「オーガニック」などの名称の表示や、これと紛らわしい表示を付すことは法律で禁止されています。
しかし、オンラインショップ等でこの「紛らわしい表示」が溢れ返っているのが実情です。言った者勝ち、なんでもありが今日の有機・オーガニックであることを消費者の皆様には注意して頂きたいです。
これについては有機JASの認証をしっかりクリアして真面目に取り組む農家の方に対する冒涜であり、行政の速やかな対応を求めたいところですね。
国民のイメージ
ところで有機・オーガニックと聞くと、確かに何となく健康や環境に良さそうなイメージがある方が多いのではと思いますが、これは実際のところどうなのでしょう?
有機・オーガニックに関するイメージについてのいくつかのアンケートを参照して「現在値」を把握していきましょう。
まずはPRTIMESさんのデータ。
上位2つはまさに「健康に良い」というイメージからの意見でしょう。また3つ目はそのまま環境に良いという印象があることを表しています。
次は農水省のデータ。平成29年度 有機食品マーケットに関する調査結果を参照します。
やはり「安全」と「健康」は上位ですね。また「おいしい」や「環境に負荷をかけていない」などの項目もかなり肯定的に捉えられているようです。「価格が高い」というイメージがあるのにも注目しておきたいところです。
次はORGANIC PRESSさんのデータ。
このデータ(N=985)でも「体に良い」という健康・安全面に関する項目は高い割合で肯定されていました。価格が高いというのも農水省のデータと似ています。
次は今治市有機農業推進協議会さんのデータです。(N=790)
4つ目の資料になりますがここまで来ると大体の傾向が掴めてきますね。
安心・安全、環境や健康に良い、そして値段の高さ。大体のアンケートでこれらの項目が肯定されているようです。
他にも複数の有機農業に対する認識のアンケートがありましたが、概ね回答の傾向は以下にまとめた通りでした。
「イメージ」のまとめ
国民の有機農業に対する認識は次の通りです。
有機農業、オーガニック、有機農産物は ① 安心・安全 ② 健康に良い・体に良い ③ 環境にやさしい ④ おいしい・栄養価が高い ⑤ 価格が高い というイメージがある
如何でしょうか自分の持つイメージとの違いはありましたでしょうか?
ただし、これらはあくまで根拠や裏付けのないもの。
先程示した有機農産物の定義からすれば、「③環境にやさしい」は確度の高そうな項目かもしれません。そしてその他の項目は、有機農産物をその定義に則って栽培したものが副次的に得た性質なのかどうか、というところが気になるところ。
有機・オーガニックの実態を突き詰めていくとこれらの認識は果たして正しいのか、はたまた間違っているのか、どちらとも言えないのか、興味深いですね。
因みに行き掛けの駄賃ではないですが、X(旧Twitter)で私も有機・オーガニックのイメージについて質問してみたのでこちらも以下にまとめておきましょう。
何やら雰囲気が違う…
私は農家であり、私のXでの投稿を見てコメントして頂ける方々も往々にして農業関係者が多いです。
つまり有機・オーガニックについて少なからず知識を持っていたり、有機農業を実践している方もいらっしゃいます。
もちろん一般の方もたくさんおられますが、上記のアンケート回答と比べるとだいぶ様相が違うことに少々驚きました。
如何でしょうか?
先ほどの複数のデータで上位につけていた5つのうち、「価格が高い」以外の項目の回答数が些か少なめです。
逆に上位には
・マーケティング・売り文句・商標・ファッション ・慣行と比べても大差ない・優位性はない ・胡散臭い ・栽培管理が大変・手間がかかる
と、生産者もしくはそれに近しい人間だからこそのイメージや、経験からなる疑いがあるように推測することができます。
特に、法律で定める有機JASではない「有機・オーガニック」を起点として、有機自体の安全・健康・栄養・食味における優位性に疑義を持つ方が少なくありませんでした。
また、慣行と有機を比べても大した違いはないと、比較し対立すること自体ナンセンスだという意見も。私自身これには賛同できて、どちらも栽培手法の違いであって長所短所はあるでしょうから、互いの良いとこどりをすれば良いのではないか、と考えています。
とはいえ事実として有機と慣行にあらゆる面でどのような差異があるのか、これを詳らかにしないことにはなんとなく健康で、安全で、栄養満点の美味しい有機農産物を子供に食べさせよう!という徒らな比較優位を論拠とする動きが広まってしまうでしょう。
先にあげたアンケートの「イメージ通り」ならば、有機農業はそれをもっと全面に出して推し進めていくべきでしょう。しかし現状農水省が推す理由にあるのは「環境負荷の低減」のみ。これの意味するところとは…?
また、有機農産物が「価格が高い」ことがアンケート結果からも、ほぼ確実な性質としてある以上、その費用対効果は慎重に調べていく必要があると思います。
次回からはその費用対効果の側面を1つずつ丹念に検証していきます。
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