某テレビ番組で国産農作物に危機という主題で、高騰する化学(化成)肥料に苦しむ農家の現状を打開する方策として、今改めて有機農業が注目されているという内容が放映されました。
これに対し現場で働く生産者の皆様を始めとして様々な物議を醸しているようです。
問題提起
その殆どを輸入に頼る化成肥料がロシア・ウクライナ戦争の影響で高騰し、コスト高による赤字に喘ぐ様相が映され、その代替として有機肥料を用いた有機農業を必要視する部分がありました。
さて、ここで農家として気になるのは
① 高騰する化成肥料を使う慣行農業 ② 比較的安価な有機肥料を用いた有機農業
があり、②が①の代替となり得るという建て付けです。
有機肥料は安価と報じられていましたが、一概にそう言えるのでしょうか?
併せて、一般的に同じ質量に対する有効成分(窒素・リン酸・カリウム)の量は、有機肥料より化成肥料の方が多くなることも留意したいところ。
栽培において同量の有効成分を求めるとき、果たして有機肥料は化成肥料の代替として安易に迎合できるものなのでしょうか?
というわけで、1つのデータを示します。
肥料の価格と有効成分の今昔
ある地域JAの肥料価格一覧には、化成肥料の他、「有機配合」という肥料のカテゴリーが存在します。化成と有機配合の価格差と値上がり率、そして有効成分量を比較してみました。
如何でしょうか?各銘柄はJAの農業資材一覧表からランダムに抜粋しています。
ほんの一例としてご認識頂ければ幸いです。
値上がり率はロシア・ウクライナ戦争が始まる前後、令和3年と令和5年のデータから計算しました。
有機配合肥料は化成肥料と有機肥料とのハイブリッド資材で、今回の銘柄では平均して約50%の有機質を含有しています。
まず肥料の価格ですが、令和3年時点では化成肥料より有機配合肥料の方が割高傾向にあります。当時の段階では化成肥料のコストパフォーマンスが良かったことが伺えます。
そして令和5年になると状況が一変、有機配合肥料より化成肥料の方が割高という様相となりました。戦争の影響が顕著に出ているところでもあります。
値上がり率は化成肥料では平均176%と信じられないくらいの高騰ぶり。実際の商品単価で見ると本当に高くなったんだなあと痛感したものです。
一方有機配合肥料の値上がり率は148%。…あれ?
有効成分のカラクリ
有機配合肥料のうち有機質は平均50%、約半分が「比較的安価となった有機肥料」で組成されているはず。
単純計算すればもっと価格の上昇率は抑えられているはずですが、例えば有機配合肥料の「かさい配合」は有機質が75%含有しているにも関わらず値上がり率は150%と、しっかり高騰しています。
化成肥料のコストが1.8倍になったから、有機配合肥料に切り替えれば経費節減に…と仮になったとしても、変えた商品が元々割高でしかも1.5倍の価格上昇となれば、果たして代替となるのでしょうか?
もちろん、全量有機質の肥料であればもっと値上がり率は低いかもしれません。やはり化成肥料など打ち捨てて全て有機肥料へ転換していくべきなのでしょうか?
そう考えたとき、肥料の「有効成分」について留意しておくべき点がありそうです。
有効成分の欄を見ればその違いに気づくかと思いますが、その成分量では化成肥料と有機配合肥料ではかなりの差異があります。とにかく有機配合肥料の方が有効成分量が乏しいのが見て取れます。
肥料によって有効成分が異なるのは目的に応じたものでもあるので安易に比較はできませんが、化成と有機配合の平均値は前者:後者=(13:8:11):(6:6:5)という数値に。
ということは、従来化成肥料を使っていた栽培において有機肥料を代替でと考えた時に、商品の容量のみで計算してはならないということになります。
慣行農業と同じだけのパフォーマンスを得ようとすると、およそ2倍の肥料を投入する必要があります。つまり今までより余分に肥料を買い、投入する手間も倍になったりしてしまう可能性があるのです。
しかも今回は「有機配合肥料」を例に取っていますので、これが有機質100%の肥料だとさらに有効成分量が減るために必要とする総量が増加することが考えられます。
まとめ
化成肥料を軸に栽培される慣行農業を安易に有機農業に転換することは、現状化成・有機のいずれの肥料も値上がりしていること、有効成分に差があるために有機転換に際して必要な総量と労働力が増えてしまう可能性は否定できません。
他にも即効性のある化成肥料と効きの緩い有機肥料では扱いそのものが異なってきたりします。
従って、
・有機農業は慣行農業の代替とならない可能性がある ・化成肥料の価格高騰対策は有機への転換ではなく、農作物価格の底上げないし補填政策が必要
私が言えるのはこのくらいです。
もちろん、品目や作型によって一概に上記のようには言えないことも多々あるのが農業の世界。だからこそ有る事無い事が氾濫する混沌極まる業界とも言えるでしょう。
慣行と有機、これらは対立するものではなく、共存共栄にあるものだと思います。スリランカの一件も含めてよくよく考える必要がありそうです。
それでは今回はこの辺りでお暇します。
ありがとうございます。
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