【検証】#6 日本の農作物は「農薬まみれ」なのでしょうか。極限まで妥協しない農薬調査④

農業

前回から少し間が開きましたが皆様如何お過ごしでしょうか。

さて、前回の記事で日本の耕地面積1ha当たりの農薬使用量が世界13位(海外領土を入れると15位)であることが明らかになりました。
ではこの順位だけを鵜呑みにして良いものなのでしょうか?
そもそもこの統計上の順位に意味はあるのでしょうか?
ここからは農薬使用量について更に突き詰めて検証していこうと思います。

まずは一旦冷静になって考えてみましょう。当該数値は農薬を田畑にどれくらい使ったかというあまりにも包括的なデータに過ぎません。
なぜこの結果になったのかの「理由」を知ることなく恐れるのは早計というものです。

今回は
①地理的要素
②経済的要素
③主要農産物
この3つの観点から先のデータの実態を見ていこうと思います。これは長くなりそうな予感です。

上位30カ国の地理的位置関係

島国や海洋国が多い

この図は耕地面積1ha当たりの農薬使用量の多い上位30ヵ国を地図上に示したものです。如何でしょうか?
まず見て思うのは、第27位のアルゼンチンを除き国土面積が小さく、海洋国が多い印象を受けます。因みにこの世界地図、メルカトル図法ともモルワイデ図法とも言えないような…とにかく面積は正確ではなさそうなので参考程度としてください。

話を戻すと、アジア・中南米・中東・ヨーロッパ・オセアニアなど地理的にまとまりはありませんがランクインしている国は全て海に面しており、かつ面積の小さめな国が多いということくらいしかこの画像からはわかりません。フェロー諸島やバミューダ諸島は小さすぎて見えないくらいです。

さて、そこで今度は反対に耕地面積1ha当たりの農薬使用量が”少ない”上位30カ国を同じように地図に落としてみましょう。

下位30カ国の地理的位置関係

上位30カ国と比較すると興味深いですね

さて如何でしょうか?
168カ国の中で農薬使用量の少ない30カ国を落としてみましたが、こちらは何やら特徴が読めそうです。
まず、明らかに地域的なまとまりのようなものがあります。ほとんどがアフリカ諸国と東南アジア諸国に集中していますね。また、内陸国が多いのもみて取れます。

日本の農薬使用量が多い理由に、温暖で湿潤な気候だからというものがあります。これは虫や菌類がどの環境下で発生し易いかを考えれば正に自明の事実でしょう。しかしこの図を見ると赤道に近く雨量の多い東南アジアをはじめとした国々の農薬使用量が少なくなっていることがわかります。

このことから、地理的要素の一つ『気候条件』は、耕地面積1ha当たりの農薬使用量の多寡における一要因ではあるものの、それを決定づける寄与度はそこまで高くないのかもしれません。もう少し詳しく見ていく必要がありそうです。

各国のデータを徹底比較

上位30カ国
下位30カ国

こちらは耕地面積1ha当たり農薬使用量上位30カ国の

① 農薬使用量
② 農地面積
③ 農業生産高
④ 農業生産効率
⑤ 気候区分
⑥ 年間平均降水量
⑦ 年間平均気温

上記7項目を一覧にしたものです。かなり時間がかかりました…
⑤の気候区分についてはより病害虫の発生しやすいものを青色の濃淡で、発生しにくそうなものをオレンジ色の濃淡で、他と比較して明らかに外れ値的なものを紫で示しています。
また、その他の項目に関しては調査した60カ国中で最も値の大きい5カ国を青色の濃淡で、最も値の小さい5カ国をオレンジ色の濃淡でハイライトしています。

① 農薬使用量 と ② 農地面積

①農薬使用量ついては、ばらつきはあるものの多く使用している国が上位へ、極端に少ない国が下位に集まっている傾向が見られます。当然と言えば当然の理論ですが、耕地面積1ha当たりで考えると最上位には使用量極小の国家もあることから、あまり強い要因ではなさそうです。

②農地面積の項目では、農地面積が比較的小さい国がランキング上位に位置していることがわかります。ここから導き出せるのは、農地面積が小さい国ほど、その狭小な面積から無駄無く効率的に農作物を生産する必要があるために、農薬使用量が多くなる傾向にあると考えることができます。

面積が広大にあれば余すことなく耕地を使い切る必要がなく、効率良く管理のできる部分だけを選択して栽培することができます。

また、枕地(作物を植える畝を立てる時に、その機械が転回したり、植え付ける機械の通り道になる耕地部分)に関しても、耕地面積が限られている国では枕地すら全て作付けしてまさに圃場全面を使い切っている生産者もいます。

反対に広大な耕地を持つ国は巨大な機械を用いて作業を行うことが多く枕地も大きくなります。基本的に枕地での栽培管理は非効率的なのでそのまま非作付け地帯となることが多いです。この違いも、耕地1ha当たりの農薬使用量に差を生む要因の1つではないかと考えられます。

③ 農業生産高 と ④ 農業生産効率

③農業生産高については、表を見る限り直接的に耕地1ha当たりの農薬使用量の多寡を決定する要因とはなっていなさそうです。
反対に④農業生産効率(農業生産額を同じ面積で考えた場合、より効率よく利益を生み出せているかの目安)を60カ国で比較すると、上位群と下位群とで明らかな違いがあることがわかります。

耕地1ha当たり農薬使用量の上位国の方がより効率よく利益を生み出すことができているようです。これが農薬を使っているから高効率なのか、高効率だから利益が出て農薬をより使うことができているのかというところまでは断定できませんが…

⑤ 気候区分と⑥ 年間平均降水量 ⑦ 年間平均気温

もう一度データを貼っておきましょう。

次に気候区分ですが、やはりランキング上位には熱帯雨林気候や温暖湿潤気候など病害虫が出やすい高温多湿で降水量の多い気候が多いです。反対に下位群には砂漠気候やステップ気候などの降水量が少なく乾燥した気候の国々が散見されます。

ただ、下位国家に関しては乾燥した気候だけでなく中央アフリカ共和国やコモロ、ギニアなどかなり降水量が多く熱帯雨林気候や熱帯雨林気候に属する国家がいくつもランクインしています。
このことから、それぞれの国における気候環境は農薬使用量の多寡を決める一つの要因ではあるものの、このステータスの変化で以て農薬使用を「減らす」というのは難しそうです。

また、上位1位のフェロー諸島の気候が「亜寒帯海洋性気候」、下位6位のアイスランドが「西岸海洋性気候・ツンドラ気候」という他と明らかに違う気候を示す国については、個別に調べてみる方が良さそうです。こういう国を調査してこそ大事な何かが隠されているのかもしれないと思うと心躍りますね♪

如何でしたでしょうか?
「耕地1ha当たりの農薬使用量」を決定づける因子は地理的要素に留まらないと思います。まだまだ他の要素も調べ倒してそれぞれの寄与度を明らかにしていきたいものです。

それでは今回はこのあたりで。
ありがとうございました。

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